時を刻むという罪
時間はただそこにあり、流れて行くだけのものなのに、どうして人間は刻みたがるのだろう。
三月兎は考えたことがあった。時間を刻まなければ、ずっとそのままでいられるのに。人間は、不思議な生き物である。
「帽子屋さん帽子屋さん」
「何?」
「どうして時間を刻みたがるの?」
「おれが!? 時間を!? まさか。刻みたくなんかないよ」
「そうなの?」
「日にちがわかる時計はあるけど、日にちは時間じゃなくて日にちなんだから、時間じゃない。時間じゃないんだ」
帽子屋が自分に言い聞かせるように繰り返す。いつものように口元しか見えないが、晴れやかでなかった顔が、わかりやすく曇った。
「おれたちの時間はいつも6時。随分長いこと6時のままだ。わかってもどうしようもない」
「ていうか、わかりきってるからね。君の時間はいつも6時。俺の時間もいつも6時。わかってるから時計がいらないんだ」
三月兎は謎が解けた気になった。わかってるからいらない。帽子屋の時間が6時で止まっているのなら、当然三月兎の時間も6時のままだ。ヤマネは寝ているから分からないが、どうでもいい。
雨が降り出しそうな表情の帽子屋を無視して、三月兎はヤマネを探した。
ヤマネは、またティーポットからお尻だけ出してすやすやと気持ち良さそうな寝息を立てている。
何も言わずにヤマネのお尻を見る。凝視する。三月兎は、お尻を眺めながら色々なことを考えた。色んなことを考えたら、なんだかとても変な気分になってきた。
――三月は、とっくに過ぎたはずなのに。
「帽子屋」
「なに?」
「なんだか、変な気分になってきた」
「変な気分?」
「三月が来そうな気分」
三月兎が切羽詰まった様子で、帽子屋に向けて体を乗り出した。
その時に、三月兎の肘がティーポットに当たって、ヤマネが零れた。しかし、テーブルの上に投げ出されても、彼は眠ったままだ。
「三月が来そうなんだよ」
三月兎がもう一度繰り返す。
「君、いつも三月じゃない?」
帽子屋が小さく息を吐き、被っていた帽子を脱いで、テーブルの上で眠っているヤマネを覆った。
「いつも三月かな?」
「三月におかしくなるから三月兎じゃなくて、もしかしたらずっと三月だから三月兎なのかもしれないね」
「お茶会が終わらないから?」
目の悪い帽子屋が、三月兎と顔がくっつくすれすれのところまで顔を近づけた。
しかし、見るためでないことは、三月兎にはわかっていた。
弥が上にも気分が高まる。兎らしく、わくわくしながら与えられるのを待つ。
すると、三月兎の待ち望んでいたものが、すぐに帽子屋によって与えられる。
帽子屋が顔を少しだけ傾けて、紅茶の味がする唇を三月兎の口へと押し当てた。
人間の熱い舌が、三月兎の唇の上を行き来する。
ちろりと舌を出すと、帽子屋の舌がそれを舐めた。
帽子の隙間からヤマネが覗いていることも知らずに、三月兎と帽子屋の夜は更けていく。
6時の針はそのままに。