その後
どこにでもあるような店で適当に服を買った。「家」に戻り、真っ黒なスーツを脱がせて買ったものを着せてみると、思いの外クチナワは若かった。人を射殺すような目つきと見下すような表情が得意なだけで、もともと顔の造りは優しげな青年だということを、俺は忘れていた。
家から歩いて15分のところに、全国どこにでもあるような大型のショッピングモールがある。
「ここにさっき言った店があるんだよ」
様々な店が一箇所に立ち並ぶさまを見たクチナワがたじろいだ。なんだここは、とでも言いたげな様子で彼は俺を見た。
彼は久納や団長とは違い、ほとんど人間の暮らす場所には現れなかったそうだ。そう言えば、白蛇様はクチナワのことを「世間知らず」と評していたっけ。やたらと広い駐車スペースに数百台の車が敷き詰められている光景を、こいつはどう思ったのだろうか。
「車に気をつけて。轢かれると大騒ぎになるから」
歩行者が多いにもかかわらず、俺たちの目の前を結構なスピードを出した車が通り過ぎていく。クチナワがそれを目で追った。
「ぶつかったとして、数時間寝れば治る」
「そうじゃねえよ。警察とか救急車とか、色々めんどくさいことが起こるんだよ」
クチナワはどこか釈然としない様子だったが、黙って、けれどどこかそわそわしながらレンタルショップへと歩き出した俺に付いてきている。駐車場を突っ切り、いくつかの店を通り越してレンタルショップに到着した。店に入る前にもう一度確認する。
「ここがレンタルショップだよ。俺達の目的地。色々借りて、帰って勉強しよう」
「どらまでか?」
「そう。たくさん見ればだんだんわかってくるよ」
「どらまを見るのか?」
「ああ」
面倒くさいからクチナワにはまだドラマの説明をしていない。
そもそもの始まりは、あの非現実な狭間の世界から現世に来て、クチナワと壊れた眼鏡を買いに行った時だ。人間に紛れて生きていく、と迷いなく言い放っていたくせに、こいつは俺無しでは眼鏡すら買えないようなやつだったのだ。クチナワは働いて金を稼ぐつもりだったらしいが、とてもじゃないがまだ社会に出すことはできない。だから、見世物小屋にあった現世のお金でしばらく生活しながら、まずはここでの生活を理解してもらおうと思った。
それにはドラマが最適だろう。少し世の中への理解が深まったら、映画も見せてみるつもりだ。
レンタルショップに入り、ドラマや映画の棚が店いっぱいに並ぶ姿を見て彼は圧倒されたようだった。眉間にしわを寄せ、作ったばかりの眼鏡の位置をずれてもいないのに直している。クチナワを自由にさせて後ろから付いていくのもとても楽しそうだが、ここは俺達がしばらく暮らしていく街。怪しまれるのは避けたい。
クチナワに一言「付いてきて」と言って彼の前に出てみると、意外なほど素直に付いてきて思わず笑ってしまった。
「なんだ」
「なんでもない」
どんな物語を見せようか。
現代日本の生活を知れるようにドラマや映画に頼ることにしたけれど、一つくらいびっくりするようなおかしな話を入れるのも面白そうだ。