早寝記録

あたためますか?

 格好良いとは少し違う。生クリームとはちみつを混ぜて、そこに砂糖の雨を降らせたような胸焼けするほど甘い表情。
 天使の寝顔を晒している福井くんも写っているし俺が生きてきた中で最高の写真だ。
 いつもなら懇意にしている新聞部に売り込むが、今日は中々足が向かない。その結果、まだ日が高いというのに自室のベッドに寝転んで二人の写真をじっと眺めている。付き合っている……という噂は出始めている。しかし皆噂として楽しんでおり本気で二人が付き合っていると思っている生徒たちはあまりいないように思われる。福井くんからも能登からも、恋人同士が醸し出す特有の変に甘い雰囲気は感じられないし。
「でもなあ……」
 寝ている福井くんを見つめる能登の顔は完全に恋する人が見せるものに思えた。こんな安っぽい括りで括っていい表情かどうかは置いといて。
「……ちょっと寝かそ」
 写真を机の、鍵を付けた引き出しにしまう。独り占めするには惜しい写真だが、今出しても福井くんに迷惑がかかる気がしたのだ。写真部の勘だけど。

 食事を済ませシャワーを浴びればもうベッドの上が定位置になる。なぜかって? 寝るまで動きたくないからに決まってる。
「なんかさー」
 本物のだきまくらを抱いてベッドに丸くなっている能登が徐ろに話し出す。その眉間には若干ではあるが皺が見えている。
「何?」
「福井くんといると、タイムスリップする時があるんだよね」
「は?」
 ベッドの上であぐらをかき壁に背を預けていた俺は、訳の分からない能登の言葉に背を浮かせた。
「ひとりでいた時は、ちゃんと夕方だ、夜になった、とかわかってたんだけど、ここに来るようになってさー、休みの日とか、朝だったのに日が暮れてることがある」
「……そんなもんだろ……」
「いえいえ」
 沈黙。
「……どっか行って、有意義な時間を過ごしてくればいいじゃん」
「それでさー、俺考えたんだけど」
 聞けよ、というつっこみは能登が続けて言った言葉によって生まれる前に消える。彼の言葉が俺が望んでいたものだったからだ。
「ずっと触ってたら良いよね」
 こうしてさ、と能登がだきまくらを捨てて俺の腕を引いた。存外強い力に俺はいとも容易く能登に向って崩れていく。ちょうどいい硬さのベッドマットが俺を受け止めてくれた。
 そして俺の上にすぐに能登が乗ってくる。全体重をかけられ苦しいが、その重さが俺を安心させる。
「やっぱ、これがいいや、俺」
 能登が言って俺の首の所に顔を埋める。さらりと頬を能登の髪が擽る。腹から剥き出しの足から体中に能登の温かさを感じ、なんだか早々にいけない気分になってきたため意図して話題を探す。まだ何にもしないうちにひとりだけ熱くなるなんて恥ずかしい。始まってしまえば恥ずかしさはなくなるけれど。
「て、転校生っていつ来んの……かね」
「明後日だよ。月曜日。昨日の会議で出たじゃん」
「……ぼーっとしてたから……」
 はぐらかすように能登の髪に指を入れる。彼の髪は男とは思えないほどさらさらとしていた。ゆっくりと感触を確かめながらかき回すと、俺と同じシャンプーの匂いが香った。
「転校生さあ、面倒くせえ事になる前に、言ってよ」
「う……ん、ぅ……」
 能登の熱い舌が首筋を舐め上げた。その感覚に下半身に電流が走る。能登に乗られて彼のあたたかさを認識した瞬間にもう俺は欲情していたのだ。あんな質問じゃ熱を冷ませなかった。
 このままやればまたシャワーか……と思ったが欲には逆らえない。少し前の自分では考えられないことだが、能登とやるのはそれだけ気持ちが良いし満たされるのだ。そうだ、どうせやるなら何も付けないほうが気持ちいいから後処理は面倒くさいが後で提案してみよう。
「福井くん……」
「ん?」
 能登がTシャツの中に手を忍ばせ、男のくせに感じてしまう突起を優しくつまむ。それだけで胸は高鳴り下半身が反応する。
「んっ、あっ、あ……」
 爪を立てられたり転がされたりぷっくりと勃っているのが自分でもわかる。
「ふ、んんっ」
 胸をいじられながら口を塞がれ、ぴちょぴちょといやらしい水音を立てながら互いの口内を溶かすように深く口付ける。
「ん……ふ、ぅ……は、あ……ん」
 恥はもうすっかりなかった。仲良くなってまだ一ヶ月も経っていないが、俺はそこらへんのバカップルたちに負けないくらい能登とこんなことをしている。能登とのセックスは最高に気持よくて面倒くさがりなのに超積極的に動いてしまう。
 中学生の時に教師と寝ていた……今考えると遊ばれていたが、そんなのは目じゃないくらい気持ちがいい。どこもかしこも溶かされそうになる。
 今だってそこには触れられていないのにおしりが疼いてしかたがないのだ。
「能登……」
「ん?」
 せっせと首やら鎖骨やらを舐めている能登にねだる。
「挿れてよ……」
「もう?」
 大きな刺激が欲しくて自ら下に身に着けているものを下ろし、足で脱ぐ。足首でズボンがひっかかってしまったが気にしない。
「こんなこともあろうかと風呂でほぐしてきた」
 これはちょっと恥ずかしかったが正直に言った。期待で尻がひくついているし、本当に早く欲しい。最近はいつもこうだ。原因不明の焦燥感とともに欲しくなる。
 人差し指と中指を能登の口に突っ込むと、わかっているのかいないのか、俺の指に能登の舌がねっとりと這う。
 唾液を指に絡みつけ、能登の口から引き抜いた。
 能登の口元が透明な液体によって艶めかしく光るのをエロいな、と眺めながら濡れた二本の指を自らの尻に埋め込んだ。
「んっ――」
 くちゅ、と小さな音。
「ほら……ぁ、――っ、結構簡単に入るよ」
 能登が黙る。引かれたか、と思ったがいつも引くほどやらしい言葉を掛けてくるのは能登の方だ。彼は無言でごそごそと自身のポケットをあさった。ポケットから抜かれた手には馴染みのゴム。
「つけなくていいよ」
「だ、だめだろ」
「なんで?」
 能登が言葉をつっかえるのは珍しい。
「子どもは出来ねーけどさー。でも、一応」
「俺、こんなだけど誰ともやってねえよ」
「知ってるって」
 言いながら、能登は下着ごとズボンを下ろし素早くゴムを装着する。
「能登、ケッペキだ」
「そんなんじゃ、ねーよ」
 別に良いけど、と言う前に能登が俺の足を割り開いてその奥へと侵入してくる。
「ぅ、んっ――」
 何度やってもやはり挿入の瞬間はまだわずかに緊張した。押し広げられる感覚にどうしても力が入り痛みが走る。
 動いていい? と聞きながら能登が前後に動き出す。ぐちぐちと卑猥な音が鳴る。
「あ、はぁっ、ん、のとっ……」
 能登の背中に手を回ししがみつく。胸と胸がくっつくくらい密着し俺は彼を受け入れた。俺の前はもうすでに張り詰めていて、最近は能登が俺の中に入って来ているというだけで達しそうになる。
 友達が少なすぎて性格がゆがんでしまったのか、能登とやると汚い独占欲に飲み込まれてしまう。今この瞬間だけは俺だけの能登なのだ。
「あっ、あっ、ひ、ぃっ……」
 能登が優しく抜き差しする度にたぷたぷと肌を打つ音がし、耳でも感じてしまう。
 能登の首に回した腕を引き寄せてキスをねだると、望んだ通りの物がもたらされる。
 恋人みたいに友達も1人って決まればいいのに、とふやけた頭で思った。