新聞部部員高原暁人
生徒会役員選挙では勿論福井君に票を入れた。
日本人ながら白い肌は透明感があり輝いている。髪も金髪と呼べる色に染めているがそうとは思えないほどつややかだ。数ヶ月に一度切られる髪の毛は伸び始めた頃がなんともエロ……いや、だめだ。福井くんでこのような妄想……。俺は写真部なんだからそういった目線で被写体を見てはならない。エロい頭で撮る写真はエロくなるから。
俺はそのままのなんだかイノセントな雰囲気のある福井くんを撮りたいのだ。
自然体の彼を撮りたいあまり若干ストーカーみたいになっていると感じるが、写真部だから仕方ない。情熱が無ければ入れない我が写真部はよく風紀委員に捕まっているが、それも愛故。
忍者のような部長から気配を消すのが天才的だとよく褒められるくらいだからまだ捕まったことはないが、俺は福井くんの奇跡の一枚が撮られるならば捕まるのも本望だと思っている。
そんな俺は今日も今日とて福井くんを付け回すのだ。
昼休み、彼は大体購買でパンを買い裏庭で1人で食事を摂っている。毎日ストーキングをしているわけではないが、この前は一度能登と食べていることがあった。あの、風紀委員長の能登だ。
俺は彼があまり好きではなかった。彼の人気もすこぶる高く、生徒の中には福井君と能登を比べるやつらもいて、そいつらは声高に「能登のほうが格好いい、会長に相応しい」と喚く。格好いいのは認めるし風紀委員長としての実力があるのもわかるが、能登と福井くんの良さは全く別のところにあるのだ。それをわかろうともしないで能登と福井くんを比べる奴らを俺は蔑む。
4時間目の授業が終わり、俺は携帯食料をポケットに忍ばせて裏庭に向った。そこで福井くんが来るのを待ち構えるのだ。
しかし、今日はすでに福井くんがいた。俺は素晴らしい位置に植えられた木の間に体を置いてカメラを構える。シャッターチャンスだからだ。彼はまるで天使のような襲いかかりたくなるような寝顔を晒していた。
(かわいすぎる……)
この寝顔、まさにイノセント。ぐっちゃぐっちゃに犯したい。間違えた。ぐっちゃぐっちゃに犯されているところを撮りたい! 俺は画面の外のモブでいい。
ぐっちゃぐっちゃにされている福井くんをどういうアングルで撮ろうか妄想しつつ撮影する。あ、邪念が入ってしまった。
それにしても、よく寝ている。生徒会長が不良だとか頭がおかしいやつが多いこの学校でこんな無防備な姿を晒しいていて大丈夫だろうか。もし襲ってくる奴がいたらその場を撮影したい気持ちを抑え助けに入る覚悟はできているが心配になる。俺は常にストーキングしているわけじゃないから。
(む)
じゃり、と砂を踏む音。誰かが来たのだ。
有事の時にはすぐに殴りかかれるように、体勢を整える。
しかしそこに現れたのはガラの悪い不良でも頭のおかしいやつでもなかった。
(能登……!)
現れたのは風紀委員長能登。今日も無駄に爽やかエロやかだ。福井くんが紅茶なら能登は絶対ソーダ水。
能登は途中で福井くんが寝ていることに気がついたのか、やたら静かに福井くんに近づいた。不本意ではあるが、美しい物を見てしまったらたとえそれがあまり快く思っていない相手に対してもカメラを構えてしまう。写真部の悲しいサガ。
福井くんはどこでも寝られる体質なのか、決して大きくはないベンチの上で体を丸めて寝入っている。能登がかがみこんでも気付かない。ちなみに俺の位置は二人の顔がばっちり見える位置。
能登はしばらくその場に膝をついて福井くんを眺めていた。口元にはうっすらと笑みを浮かべているが、目はそれほど笑んでおらず、何を考えているかわからない表情だ。『じっと観察している』。この表現があたっているかもしれない。
ふと、能登の表情が変わる。こらえきれずといったように目元が緩んだ。綿菓子のようなふわふわとして甘い表情に俺は思わず能登にピントを合わせてシャッターを切っていた。
そこからどうやってバレずに暗室にたどり着いたのかはわからない。
でも、少なくとも俺は能登にも福井くんにも気付かれずに裏庭を後にした。
福井くんが起きた時の反応を見たい気持ちはやまやまだったが、あの能登の表情を見てしまった俺は急にのぞき見をしていることが後ろめたくなったのだ。あの先は見てはいけない気がした。
今までこんな気持ちになったことがなかった。良い写真のためには悪魔にさえ魂を売るつもりだった。しかし今俺は唐突に自分が中二病にかかっていたことを知ったのだ。悪魔に魂を売るなんてなんか格好よさ気なことを思っていたのに、キラキラした何かを飛ばしている二人にすら申し訳ないと思って逃げ出してしまった。俺は写真部失格だ……。
自分に失望しながら先ほど撮った写真を現像する。
現像した写真を見た俺は、自分に今しがた覚えた失望以上の期待を得た。
人生で最高の写真が撮れていたのだ。
レンズを通して映し出されたものは嘘か真実か――。
俺は、能登の奇跡の一枚を撮ってしまった。