会長ごっこ
「会長ごっこしようぜ」
日だまりの中、木に背中を預けて友人に提案する。
「いやだよ」
「なんでー」
「……どんなんだよ会長ごっこって」
どんなだよ、と言われて考える。俺の9割は嘘とノリで出来ている。
会長ごっこってどんな感じだろうか。会長、会長……。
会長に対する俺のイメージを総動員する。よし、完璧だ。
「優太」
俺は出来る限りのイケメンボイスをひねり出し、いつもは名字で「ミキちゃん」と呼んでいる友達の名前を呼ぶ。
その時に吐息がかかるくらいの近さまで顔を近づける。
三年間一緒にいながらにしてたった今気付いた。今まではつんつん立てたベリーショートの男前な髪型のせいで気がつかなかったけど、ミキちゃんは意外と綺麗な顔をしている。
友達の良い所に気がついて、ふっと笑う。あとでからかおう。
今は会長ごっこをするのだ。
「な、なんだよ」
焦ったミキちゃんの声がおかしい。
さらに焦らせたい。
「優太、跪いたのち俺の足にキスをして仰向けになり腹をみせワンと鳴き抱いて下さいと言え」
さっきよりも頑張って精一杯のイケメンボイスを絞り出し、ミキちゃんを嘲り笑う。どうだ、会長っぽいだろう。
まあ、中の上と専らの評判の俺とふんどし姿でさえも様になりそうなくらい美形の会長だと俺がいくら頑張ったってたかが知れてるけど。
俺は会長について実際はあまり知らないが、聞く噂とたまに見掛けたときの尊大な態度から予想する。
すると、真面目なミキが呆れた顔で俺を見た。
「……お前の会長イメージそんなんなんかよ」
「うん」
「で、この遊び楽しいわけ?」
「多分つまんないよ」
「は?」
「会長自身つまんないやつっぽいじゃん?」
そうしてうへへ、と下品に笑うと、俺の正面に向かい合って座っていたミキの顔が一瞬にしてこわばり、火がついたように校舎へと駆け出して行ってしまった。
「なんだよ、あいつ。意味わかんね」
意味が分からないが追うのは面倒くさい。
俺は木に預けていた背中を今度は芝生に預けることにした。
今日はいい天気だ。
空を見て物思いに耽るのも爽やか少年という感じでいいだろう。
「!!」
そうして寝転んだときだった。俺の目に、ありえないものが映ったのは。
「会長……」
寝転んだ俺の真上、青空を遮る会長の顔。
「木戸だっけ?」
「いいえ僕は田中です」
なんだか危険を感じて名を偽る。
しかし俺の名前は木戸だ。たしかに木戸だ。どうして生徒会長が俺の名前を知っている。死亡フラグか?
「木戸だよな」
「いいえ僕は田中です」
「木戸君、来てほしいんだけど」
会長の笑っているけど笑っていない目が恐くて顔を背ける。
「お断りします。って、あ! あんなとこに!」
校舎の影にミキの影。あいつあんなとこで俺を観察してる。助けに来いよ何も言わず自分だけ安全圏に逃げるなんてありえなくね?
しかもミキちゃんは会長について何も言ってないんだから怒られることとかないだろうしさ。
ああ、校舎の方向を向いて気がついてしまった。
俺は――正確には俺と会長は今凄まじい数の視線にさらされている。
会長にとってはこんな視線なんて何ともないのだろうけど、俺みたいな一介の一般生徒にとっちゃ一つ一つが凶器ですよ。
雨が降ろうと槍が降ろうとの槍的なものですよ。
俺は今ぐさぐさに串刺しにされているんです。ああ嫌だ。気でも失っちゃいたい。
「友達逃げちゃったみたいだな」
そんな俺の胸中なんて慮ろうともせず俺を見下ろしていた会長が俺の横にちょこんと座った。
なんか、もうどうにでもなれだ。
「……どうして名前知ってるんすか」
諦めた俺は体を起こして会長の隣であぐらをかいた。会長の前に先輩なのだからこの態度はいけなかったかな、と思ったが後の祭り。どうでもいい。
「風紀委員名簿に顔写真と名前が載ってたから」
「……下っ端ですよ」
「人の顔覚えるの得意なんだよ」
「素晴らしいですね」
「ああ。来てほしいんだけど」
会長は適当に適切に質問に答え、さりげなく強引に話を戻した。
「いいっすよ」
俺は会長に聞こえるようにため息をついて立ち上がった。ひどく緩慢な動きだと自分でも思ったが、心と体が共鳴してるのだ、きっと。
「よし、じゃあ行こうか」
そうにっこりと、顔の表面だけはにっこりと笑って腕を掴まれたら、もう俺は行くしか無かった。そう、逝くしか。