Vin rose'2
とにかく食堂というところに行けばいいらしい。房の覗き窓から外をずっと見ていたら、囚人たちが「食堂」という言葉を口にし、みな同じ方向に向かっていっていた。おれのいるところを通り過ぎるときに、よくメイという言葉を耳にしたが、どうやらおれは噂になっているらしかった。
おれが「先生」に言われて水浸しにしたチカガイはすごく有名で、沢山の人がいて、そして、沢山の人がおれに殺されたらしい。実際に自分で手にかけたのは数人だったから、彼らが言う人数に実感がわかなかったが、とにかく沢山の人がおれのせいで死んだ。今となってはどうでもいいことだけど。
人の流れが落ち着いた頃房を出た。昨日の夜に来たけれど、朝でもあまり変わりはない。窓がなくて外の光が入ってこないから、朝も夜同様電気が点いているし、その電気もあまり明るいものではない。少しだけ自然の光が恋しくなる。
しばらくして人が減った頃、房から出てみんなが向かった方向に歩を進めた。廊下の両側に均等に房が並んでいる。房といっても、ドアとその上部についている覗き窓しか見えないけれど。
後ろから人が来る様子はないからゆっくりと歩く。結構長く歩き、廊下の端まで来ると、窓があった。ガラスは厚く頑丈そうな鉄格子が嵌められたそれは開きそうにないが、空が見えた。残念ながら曇っていたが、自然の光が恋しくなったらここに来よう。
廊下は左右に伸びているが、どうやら食堂は右側にあるらしかった。幽かだが、囚人の声が聞こえる。またゆっくりと歩いて行く。窓が並んでいるから、窓の外の曇空を眺めながら。進んでいくと、次第に声は大きくなっていき、ぷんと料理のにおいもしてきた。ちょっとわくわくする。昔からクソみたいなものしか食べてこなかったから、少しでも味がついているととてもおいしく食べられるのだ。セイフの食べ物もすごくおいしかった。
開けっ放しになっている食堂のドアをくぐると、何人かの囚人に見られた。気づけば、何人もの囚人がじろじろと俺を見ている。
そして、いたるところから「メイ」という単語が聞こえてくる。
「メイ」はおれに与えられた名前だ。チカガイを壊したのが5月だったから、メイになったらしい。名前をもらえたら嬉しいだろうなあと昔はよく思っていたけれど、実際与えられてもひとつも嬉しくなかった。
ふりかかる視線を無視して中に入る。正面に配膳台があった。自分で配膳するようだ。
「メイだかなんだか知らねえけどよお、でかい顔させるわけにはいかねえよなあ」
すぐそこだと思っていた配膳台までが遠い。強い力で肩を掴まれて後ろを向けば、声同様でかい図体の男が唇をいやらしく捲り上げておれを見下ろしていた。困ったな。こういうとき、どうしていいかわからない。
「なあ新入り、お前もそう思わねえか?」
多分だけど、おれのことを知っているくせに男が訊いてくる。目は見開かれており、なんだか気持ち悪い。死ねばいいのにな。嫌悪感をださないようにして、笑ってみる。
「でかい顔はしないよ」
「ああ、チェリンさん、こいつがメイっすよ! なんだ、超弱そうじゃないっすか」
「ああ、悪いなあ、お前が噂のメイちゃんだったか!」
チェリンか。覚えておこう。チェリンの顔と名前を良くない頭に叩き込んでいる内におれをからかう下卑た笑い声が響き、最後には狭くはない食堂中を包んだ。
おれを包む笑い声と、無神経な視線。攻撃的に見ている者、迷惑そうに見ている者、怯えている者など様々だが、居辛いことには変わりない。
腹が減っていたのに、なぜか急に食べたいと思わなくなった。
おれはこれ幸いにと食堂から出た。
腹の中が重い。
胸のあたりに穴があいたみたいに風が入る。
なんか、変だ。
けど、どうしようもない。おれにはこういう時にどうすべきとか、そういう知識はないし、土壌がないから考えたところで無駄だろう。
昨日の看守はなんて言っていたっけ。
……ゲスイ?
そうだ、ゲスイだ。労働するとかなんとか言ってた気がする。でも参った。ゲスイがどこにあるのかわからない。
とりあえずきた道を戻る。房からまっすぐ歩いて、右に曲がったら食堂についたらか今度はさっきとは反対側の道を行く。たくさんの房があるようで、窓とは反対側にいくつかの居住スペースがあった。だいぶ歩き、突き当りに上に行く階段と下に行く階段があるが、どちらに行けばいいかわからない。そもそもゲスイってなんだ?どういうもの?とりあえず、階段を上がってみる。打ちっぱなしのコンクリート造りの階段は殺風景で寒くてすこし怖い。ひとつ階を上がったところで、3人で屯している男たちがいた。迷ったが、迷ったところでゲスイにも着きそうにないので話し掛けてみることにする。
「すみません。ゲスイって知ってますか」
話し掛けて早速後悔。ひとりの男がさっき大嫌いになったチェリンに似ている。
「はあ?」
「なんだ?」
男たちが顔を向ける。醜い!さっきのチェリンたちのような不快な顔。
「すみません人違いでした」
謝って踵を返したところで腕を掴まれた。
「……なに?」
「いやあなあ」
うひひと男たちが笑い、おれの腕に鳥肌が立つ。見ればみるほどチェリンと似ている。離れたい。早くゲスイに行きたい。経験上、殺したら逃げられるまでに時間がかかったから殺さないで逃げる方法を考えないと。殴られるくらいなら我慢しよう。
そう思った時、強い力で突き飛ばされて今しがた出てきた踊り場に尻もちをつく。
「兄ちゃん、随分綺麗な顔してんじゃねえか」
チェリン(仮)がなぜか顎を持ち上げてくる。汚い顔と顔が近づく。チェリン(仮)の後ろにひとり、おれの後ろにも一人回ってくる。
「労働前にちょっと遊ぼうぜ」
言い終えるか終えないかのタイミングで腹を蹴られる。ふいにだったからほんの少し声が出てしまった。おれが喚かなかったことが男には不満だったらしく、前髪を掴みあげられ、そのまま頭を床に叩きつけられた。痛いけど、頭の痛みは我慢できる痛みだ。けど、なんとなくうめいておいた。
男たちはおれを共同のトイレへと引きずっていった。立ち上がって反撃することもできたけれど、何をされるのか興味があったからおとなしく引きずられる。毎日が勉強だ。もうひとを殺してしまったし、ここからは死ぬまで出られないけれど、それでもやっぱりおれは普通になりたい。おかしな中でも普通の人生を送りたい。だから、普通のこいつらがどういうことをするのか見届けようと思った。
だけど、連れて来られたトイレは普通ではなく、汚いところだった。もう使われていないのか、入り口にはロープが引かれていた。
「いい子だな」
髪を掴み上げられて立たされたおれにチェリン(仮)の仲間が言う。顔が長いから馬と呼ぼう。
「お前新顔なんだろ? どこから来たんだ?」
「……わからない」
「はあ? なんだよ、なめてんのかよ!」
チェリン(仮)の、馬じゃないほうの男が個室のドアを蹴る。ひどく短絡的な人間らしい。こいつのことはバカと呼ぼう。
「まあ、良いじゃねえか」
ふひひ、とまた気味悪くチェリン(仮)が笑う。どうやらこいつがリーダーらしい。あばたが散る顔は綺麗ではないが、馬とバカよりは人間らしく見える。何がと聞かれたらわからないが、それだけに嫌悪感が募った。馬とバカは機械とか獣のようで、思考できる立派な脳みそはないような感じだ。だけどチェリン(仮)は違う。思考した上でしゃべり、おれの腹を蹴った。獣に襲われてもなんとも思わないが、思考できる人物に敵意や揶揄の感情を向けられるとどうしようもなく腹が立つ。
それでも、こいつらはおれよりは普通の人生を送ってきたはずだ。だって名前があるから。だからもう少し我慢して様子を見よう。
「もう殴りはしねえよ。すぐ終わる。洗面台の方を向いてそこに手をつけ」
言われたとおりにしてみる。洗面台の上には割れた鏡があった。おれがいる。しばらく見ていなかった自分はやはり他人のようだった。
「は!?」
一瞬、何が起こったかわからなかった。体の真ん中あたりが寒くなったと思い、真っ白になった頭で振り向くと、なんと自分の尻が見えた!
「何すんの!」
逃げようと身を翻した瞬間足を払われ床に肩から落ちる。起き上がる間もなく腹の上にチェリン(仮)が乗った。
「ぐっ」
苦しい。何か食べてたらきっと吐いていた。
「いきなりうぜえな。まさかお前さっきまで自分が何されるかわかってなかったのかよ」
おれの上のチェリン(仮)が意地の悪い、勝ち誇ったような笑みを浮かべ見下してくる。でも、それどころじゃない。何されるかわかってないって? わかってなかったのはわかってないけど、でも、今は知りたくない。知っちゃいけない気がする。
「う、わっ、何!」
チェリンが話している最中なのに、誰かにいきなりペニスをわし掴みにされる。
「おい、こいつすげえウブだぞ!」
「なんなんだよ! どけよ!」
思わず叫ぶ。
「うお!」
そして思い切り足を振り上げて足元にいるバカを蹴った。
「いったい!」
だけどダメージはおれの方が深刻だった。バカはバカだからか俺のペニスを握ったままで、もげる! と思うほど痛かった。
「おい! コイツ馬鹿だぞ!」
馬が頭上から驚いたようにバカにしてくる。チェリン(仮)は何を思ったか、汚い指をおれの口に突っ込んできた。喉の奥まで入れられて噛み付くことすらできない。
「ううっぐっ、んぅっ」
喉の奥を責められて泣きたくもないのに涙を流しながらえづく。
馬の手がペニスから尻に移動する。割れ目のところを丹念に行き来する馬の手に嫌な予感を覚える。
「あっ、あえ!」
やめろとも言えず、足はバカに掴まれ動かせない。
猛獣相手だったら負けることなんてなかったのに、思いもよらない攻撃に動けなくなるなんて情けなくて死にそうだ。
ふと、手の存在に気づいた。パニックになっていて忘れていたが、俺には手がある!
動かない!
右手は背中の下にありもう感覚がない。チェリン(仮)が乗っているから出すことも出来ない。口から涎が垂れるのがわかり、気持ち悪かった。
どうやら無事な左手を床に這わせる。何かを掴みたかった。何があるか、物があるかすらわからないけど、何かを掴みたかった。
ひんやりとしたものの感触。それを思い切り掴む。
(痛っ)
手が切れた。でも、これなら。
そう思い、チェリン(仮)目掛けて振り上げると、目の前が真っ赤になった。同時に、口が自由になる。
何が起こったのかわからず放心したが、我に返りチェリン(仮)を確認すると、おれの上で彼は上を向いていた。何か、黒っぽいものが勢い良く噴き出している。吹き出した方向にちらりと目を向けると、床と壁が赤く染まっていた。
「う、うわああ!」
バカと馬が慌てたような悲鳴を上げてトイレから出て行く。
長い時間のように感じた。チェリン(仮)の首から吹き出した血が止まった頃、チェリン(仮)がおれに向かって倒れこんだ。
弛緩してさらに重いチェリン(仮)の下からなんとか這い出る。
ひどい有様だ。元から汚かった床と壁は更に汚れている。改めてチェリンを確認すると彼の首はすっぱりと切れているようだった。だけど傷口は血で真っ赤だからあまり生々しくはない。暗いことも幸いしてそこまで気持ち悪くならなかった。けど……。
「殺すつもりはなかったんだ。……多分」
チェリン(仮)はもう動かない。
「むかついたのは本当だけど、殺すつもりはなかったんだよ」
ごめんね、と言った。
許さない、と返ってきた。
チェリン(仮)の閉じない目がそう言っていた。
どうしよう。
とりあえず、立ち上がりズボンを上げる。それから割れた鏡で自分を確認。随分と青白い顔が見返してきた。だけど、あんなに血が勢い良く噴き出してきたのにもかかわらず俺の服はそれほど汚れていない。
チェリン(仮)の足を持ち、トイレから出る。振り向いて確認すると、チェリンを引きずって歩いたところにそって血の道ができていた。でも、そのまま置いておく訳にはいかない。死体は腐り、そのうちに蛆が湧く。蛆はとても気持ち悪いし腐った死体はひどい悪臭を放つ。だから、捨てないと。
だけど、深刻な顔をして死体を引きずっていたらもっと変な奴に思われる。
おれは混乱していた。
だけど、そのことに気づいていなかった。
「ゲスイって、どこですか?」
トイレから出て、居住スペースがある方へと歩いて行くと、数人の囚人の姿があった。
笑いながら尋ねるが、答えてくれる者はおらずみなぎょっとした表情でおれから逃げて行く。ぽつんとひとり(死んだチェリン(仮)もいるが)残される。
まだ食事中なのか、囚人自体が少なく、数少ない囚人たちは俺を見た瞬間逃げていく。看守には会いたくないが、看守でいいから会いたかった。処罰させるかもしれないが、次にどうして良いかわからない状況からは抜け出せる。
居住スペースを見回す。人っ子一人いない。このままいても埒が明かないと思い、チェリン(仮)と出会った踊り場に戻る。それからチェリン(仮)を引きずったまま下の階に降り、さらに下へと降りる。下の階には居住スペースがないようで、今までのところと雰囲気が違った。長く伸びる廊下と、そこから細かく分岐しているところは同じようだが、窓がなく、等間隔に吊るされている白い電球がなければおそらく真っ暗だろう。
誰もいないと思いながら歩いていると、遠くに、随分とゆっくり歩いている影を発見した。逃げられそうになったらすぐに捕まえられるように早足だけどなるべく足音を立てないように近づいていく。
前を歩いているのは多分おれくらいの身長の少年。線は細めで、これなら容易に勝てそうだ。
チェリン(仮)他2名に襲われて頭が真っ白になってうまく切り抜けられなかったことで自信が揺らいでいた。揺らいでいたというか全くなくなっていた。
だけど初めはフレンドリーに。できるだけ笑顔で話しかけよう。
「下水ってどこにあるか知ってる?」
少年が振り返り、一瞬だけ驚いたように目を見開く。一緒に育ってひとりで死んでいった少年と雰囲気が似ている。無視されたくないなあ、と思った。
「こことは反対側」
「ああ、そうなの? 参ったな。誰も教えてくれないのに反対とか……」
声まで似てる。どうしよう、なんか笑えない。口に手も突っ込まれていないのに涙が出そうになり、気を散らすためにチェリン(仮)を持っていない方の手で頭を乱暴にかく。
大丈夫だ。もう大丈夫そう。
少年は足を止めてちゃんとおれと向き合ってくれている。少年が口を開きかけたところで、あわてて先に話しだす。
「ねえ、君さ、良かったら連れて行ってくれない? 今日だけでいいから」
半ば無意識。手だけを残して死んだあいつに似ていたからもう少し一緒にいたいと思ったし、それ以上にちゃんと足を止めておれの目を見て話してくれたことが嬉しかった。だから、この先もう言葉を交わすことすらなかったとしても、もう少しだけ一緒にいてほしかった。
少年は悩んでいるようだった。やっぱりだめかなあ、と少し気分が沈む。
「……死体でも捨てんの?」
「は?」
「まあ、よく流れるところだけど」
なんでもないことのように少年は言って、おれの脇を通り抜けた。
「連れてってやるよ」
おれが作った血の道に沿って少年が歩いて行く。足元を見ると、少年は意識して血を踏まないようにしているようだった。今更自分の格好に恥ずかしさを覚える。服は明るい所でみたらやっぱり血まみれだったし、引きずり回したからチェリン(仮)もさっきより壊れてしまった。
それに、おれはなぜか有名なようだから、誰かに見られたらこの少年が仲間だと思われてしまうかもしれない。
「こっち、曲がるよ」
少年が振り返り、指をさす。「E13」という記号が目に入った。この廊下も長く、暗い。
「ここが一番の近道なんだよ。まっすぐ行くと階段あるんだ。そこ降りてけば近い」
もう答えを全部いったようなものなのに、少年はまだおれの前を歩いてくれている。おれも、あとはひとりで行けると言えばいいのに、なぜか言葉が出てこない。なにかをしてもらったらお礼を言うんだと「先生」は教えてくれた。「先生」がおれたちに本当のことを教えてくれたのかは定かではないが、お礼はしなければいけないと思った。けど、ありがとって今言って大丈夫? 変じゃない? 普通だと思われたい。人を殺すことはふつうじゃないからもうこの子には異常だと思われていると思うけど。
ぐずぐずと悩む。そのうちに、階段が見えてきてしまった。少年の黒い頭を見つめながら、階段になんか着かなければいいのにと本気で思った。
名前。名前を知りたい。そうしたらもう会えなくなっても心のなかで考えられる。よし、聞いちゃおう。教えてくれるかもしれない。
なぜか、心臓が痛いほど速かった。こんなに早くなったのなんて前獣に叩かれて頭が割れた時以来だ。今は血も出ていないのに。
「き」
発した言葉のちいささに驚く。速い心臓をやりすごし、きちんと口を開けてから音を出す。
「君、名前なんていうの?」
声が出た! 嬉しい!
「ロゼ」
振り向いてくれなかったけど、すぐに答えが返って来た。嬉しい!
「ロゼ? 本名?」
調子に乗って質問する。
「そんなようなもん」
またすぐに答えが返って来た。嬉しい! けど
「なんか曖昧」
「名前なんてなかった頃に呼ばれだしたんだよ。ワインの名前。そこにあったからって付けられた」
ロゼが階段をゆっくりと下りながら教えてくれる。ロゼも名前がなかったのか。おれと同じだ。でも、ロゼはおれとは全く違うように見える。ロゼはまともで、普通の人間だ。けど、嬉しい。一緒のような気がしておれは笑った。困ってもいないし、笑おうとも思っていないのに、へへへとなんだか気持ち悪い声が出た。
「でも、おれも適当だしなあ。5月に捕まったからMayって、ふざけてる」
こんな会話をしながら、気付けば階段の一番下まで来ていた。ロゼとの時間もここで終わる。死んでるチェリン(仮)はいるが、またひとり。それに、下まで着いた時、ロゼが安心したように小さく息をついたのを見てしまった。やっぱり、死体を引きずっていて、悪い方に有名らしいおれと歩くのは嫌だったのだろう。ありがとよりも、きっとごめんなさいが正しい。そう思い口を開きかけた時だった。
「出てすぐの小部屋にマスクとかあるから、着れば良いよ。すっげークサイから」
さりげなくがんばれ、とロゼは言った。ずっと難しい顔をしていたロゼの本当に小さい一瞬の笑み。
「……ありがと。ここまで連れてきてくれて」
「いいよ、別に。遅刻しねえし。じゃあな」
そう言ってロゼが階段を上がっていく。
「ありがと……」
聞こえていないけれど、もう一度礼を言った。