早寝記録

Vin rose'3


ゲスイへの扉を開けて驚いた。ゲスイは巨大な地下空間だった。50メートルほど先まで足場があり、その先には悪臭を放つヘドロの川がある。臭いが、むかしよく嗅いでいた慣れた臭いだ。わずかに懐かしさすら覚える。小さな小屋が点在しているようだったが、まずは水音が聞こえる方へと歩く。流れの遅いヘドロの川。なんでも受け入れてくれそうな包容力を感じた。

「殺すつもりはなかったんだ」

ごめんなさい、と謝り、チェリン(仮)をヘドロに落とす。チェリン(仮)はゆっくりと沈んでいった。そして、流れていく。ごめんね、ともう一度謝る。水の音がうるさくて聞こえなかっただろうけど、聞こえても許してはもらえない。謝るのは自分を救うためだろうか。でも、ちっとも救われた気がしないからこれも違う。

沈んで見えなくなっても、チェリン(仮)を眺めていた。ぼうっとしていた。だから、後ろに人が来ているのにも気づかなかった。
一瞬。
一瞬でおれは拘束されていた。後ろ手に何か紐のようなもので縛られ、口を塞がれる。甘い香りに、思考が瞬く間に鈍くなっていく。

鋭い痛みに目を覚ました。

「やっと起きた」
「つっても3分くらいじゃん。拉致って縛って突っ込んで~」

ぎゃはは、と下劣な笑い声。だけどいかんせん頭がぼうっとする。痛いところはどこだろう。

「たまには早く来るもんだよね。オレら超ラッピー!」
「ラッピーってなんだよ」
「ラッキーたすハッピーでラッピー」
「そうか。ラッピーだな」

ふへへとバカそうなふたりが笑い合う。

「いった!」

ぐり、と押されてわかった。鈍い頭が覚醒する。尻だ。それも穴。むりくり頭を起こすと、金髪のバカがおれの尻に指を突っ込んでいる。なんていう拷問! こんな拷問方法知らなかった。でも、チェリン(仮)の仲間のバカもおれの尻に突っ込もうとしてたし、意外とスタンダードなのかも。拷問する側も汚いはずなのに、世間の拷問は変わっている。

「それ、抜いてよ」

頭が覚醒したから体を起こそうと力を入れるが、体はまだかなりだるく思い通りに動いてくれない。

「えー! なんでー! 抜かないよ! 入れたばっかだし!」

頭の上からおれの肩を床に押さえつけている茶髪のバカが言う。

「なんでいれんの? 同じ痛いのなら殴られる方良いんだけど。これ恥ずかしい」
「殴っても楽しくないじゃん!」
「これだって楽しくない」

痛いけど痛いより恥ずかしい。

「楽しくなるよ。気持ちよくなるもん、最後には」
「気持よく? なにそれ」
「何それって、何? まさかお前知らねえの?」
「何を? 知らないよ、おれ。何? ケツに指突っ込むのが気持ちいいの?」

それが普通の人間?

「……いや、まあ……。なあ、ヒルベルト、なんて言えばいい? 俺」
「うるせえよ! レイプに気持ちいいもクソもねえだろうが」
「いっ、いってえ!」

引きつるような痛みに背中が反る。股を閉じたいのに閉じたら痛くて少し開く。ぐりぐりと、金色バカ――ヒルベルトの指が押し入ってくる。

「つうかコルシさあ、なんで睡眠薬持ってきてローションねえの? かわいそう、痛そうなんだけど。気持ちよくはしてやるつもりねえけど、しくしく泣かれるとなんか罪悪感」
「睡眠薬の気分だったから! あと、ヒルベルト、お前が下手なのもある」
「なんだよ! 下手じゃねえし!」
「下手だよ! おれならもっとジェルなしでも気持ち良く――」
「おはようさーん」

 コルシが言い終わる前に勢い良くドアが開く。

「さよならさーん!」

おれが状況を認識する前に、コルシとヒルベルトは一目散に逃げ去っていった。

「なんだよ、あいつら。相変わらずヘタレてんなあ」
「まあ、しょうがねえんじゃねえ? でも、今日のは随分上玉じゃねえか」
「ああ」

コルシとヒルベルトに代わって入ってきたのは、図体のでかい短髪の男と蛇のような狡猾そうな男、それから脂ぎったデブだった。どいつも性根の悪さが姿形に現れているように感じられる。さっきのバカふたりとは雰囲気が違う。

「なあ、随分いい格好してんなあ」

短髪が傍にしゃがみ、俺の尻をなで上げる。その手つきに言いようのない不快感を覚える。明らかな嫌悪。後ろに控えるふたりがなぜか息を荒くして俺の傍にしゃがんだ。生暖かい息が顔にかかり思わず顔が歪む。

「はじまるまで1時間か。足りねえけど、まあ、十分か」
「良いじゃん。今日のCブロックはシュラーメクだし、みんなで遊ぼうぜって誘えばいい」
「そうだな。アクロフ、シュラーメクのとこ行って来い」
「ええ。俺ぇ? まずはじっくり見たいのに」
「ダイエットだ。行け」
「ほい」
「そうだ、メイちゃんだっつうの、言えよ。そうすりゃ二つ返事でおっけーだろうからな」
「わかってるって」

 デブが名残惜しそうにドアから出て行く。

「バルトル、お前どっちやる?」
「俺は後で良い。ボルム、先やれよ」

バルトルと呼ばれた短髪がポケットから小瓶を取り出して蛇――ボルムへと投げる。
意識がはっきりしている分もどかしい。体が動けばすぐに立ち上がるのに。それで……。

殺す?

ふと、ロゼの顔が浮かんだ。
あいつは、何をやって罰を受けているのだろう。いいやつに見えた。実際に良い奴だと思った。
チェリン(仮)を引きずるおれに引いていた。
もう誰を殺したってかまわないと思っていたけど、ロゼに引かれたくない。……もう話すことはないだろうけど。

我慢しよう。

「いいもん持ってんじゃん、お前」

言いながら、ボルムが小瓶の蓋を開ける。中には液体が入っており、彼は手のひらにその液体を出した。粘り気があるように見える。
ボルムは手のひらに開けた液体を指で掬うと、迷うことなくおれのアナルに擦り付けた。冷えたとろとろの液体が纏わりつく。
次にされることは多分わかる。
ぬるりとボルムの指が中に入ってくる。圧迫感と痛みはあるが、さっきほどの痛みではない。今となったらケツに指を入れられるくらいの拷問なんだって思う。臭くて汚くてドロドロしてるなんかに顔から突っ込まれて殴られて鞭で背中が裂けるまで打たれるのと比べたらこっちの方が余程良い。恥ずかしくて、とてつもない情けなさは覚えるが、あれよりは良い。そう納得し、目をつぶる。

「つうかメイちゃん余裕じゃねえの」

ぐいと前髪を掴まれ横を向かされる。バルトルだ。

「は……?」

見てみて驚く。眼前にバルトルの青筋が浮き立ったペニスがあった。自分のものよりも太くて大きなそれはグロテスクに見える。

「いっ」

アナルに埋め込まれた指が動き出す。上下に動く度びりびりと引きつる痛みが生じ、背がしなる。痛みで瞑った目を開けると、バルトルが自分のペニスを俺の前髪をつかんでいない方の手でしごいている。なにしてるんだこの男。気持ち悪い。俺の尻に指を突っ込んでいる男も、目の前で自分のペニスをいじってる男もどっちも気持ち悪い。

「メイちゃん、口開けろよ」
「は?」

なんで? と言おうと口を開けたら、バルトルが自分のペニスをおれの口に突っ込んできた。予期していなかったことにおれは固まった。口の中に入ってきたものを追い出そうとするが、前髪を掴んでいたバルトルの手は今は俺の後頭部に回っていて両手でおれの顔を頭ごと固定している。ふにゃふにゃしていて、味はしないがとても気持ち悪い。不快だ。吐きそう。咳とともにえづく。さっきチェリン(仮)の指が喉を突いてきたのも思い出しさらに気持ち悪さが募る。

「いいなあ、バルトル。俺も突っ込みてー」
「いいんじゃねえの、もうヤっちゃっても」
「まだ慣らしてねえよ。……けど、まあ、いっか」
「はは、いいっていいって。なあ?」

バルトルが口の端を歪め、ゆっくりと腰を動かしてくる。唇に当たるわずかに動く皮膚、喉をかすめるペニスの先。どうしておれはこんな目に遭ってるんだ?罰を受けるためにここに来たけど、こいつらも囚人だから悪いことしてきたんじゃないのか? どうしておれ、こんなことされてるの。

「んん、ううっ」

引っ込めていた舌が口内で動くバルトルのペニスに誘発されて彼のペニスを舐めるために機能し出す。さっきよりもバルトルのペニスが濡れていくのがわかる。少しして、わずかにしょっぱい味が口の中に広がった。気持ち悪い。

「ん、んん!?」

アナルが引き裂かれるような痛みを覚え目だけをボルムに遣ると、ボルムが自分のペニスをおれの尻に入れようとしているのが目に入る。異常だ。普通じゃない。こんなのおかしい。絶対間違ってる。普通の人生を送ってきた奴が自分のペニスを他の人に入れるわけない。獣たちが檻の中で盛っているところを見たことがあるが、あれは醜かった。人間のやることじゃないのになんでこいつらは獣と同じことを好んでしようとする? 「先生」だって、こんなのを人間がやるって教えてくれなかった。

「んんっ、んううっ」
「あーいいわー」

やめろと言いたいがバルトルが腰を振ってくるせいで全く声が出ない。

「俺も気持ちよくなろうっと」
「んんっ」

ボルムが腰を進めてくる。アナルがペニスと一緒に体の中に入ってきそうだ。もう無理。切れる。絶対怪我する。そこ、ものを入れるとこじゃない。やめて。
そう思うのにボルムは止めなかった。

「いいね、泣いてる」
「声聞きたいからバルトル抜いてよ」
「やだよ。とりあえず出すまでやる」

気づけば、おれは死んだ蛙のように足を開いていた。そしてその間にはボルムがいて、せっせとペニスをアナルに埋め込もうとしてくる。

「けど、さすがにきっつい……」

ボルムが小瓶から直接繋がっているところに液を垂らし、一度ペニスを引き抜き、また入ってきた
出しては入れてを繰り返される。次第におれの中がボルムの形に慣れていくのを感じる。ぐちゅぐちゅと、耳を塞ぎたくなるような音が尻と口から聞こえる。

「一気に行っても切れねえかな」

そう言うと、ボルムが一気に腰を進めてきた。

「んうっ! か、ああっ」

口の中に苦いものが広がったと思ったらバルトルのペニスが引き抜かれた。空気を吸い込む間もなくアナルをかき回される痛みに声が出て、息ができない。咳き込むと、涎以外の何かどろりとしたものが一緒に吐出された。それが苦いものだ。あれだろうか。たまに、朝起きた時に出るあれ。白くて気持ち悪い液体。病気だと思っていたけど、バルトルからも出るし、病気じゃなかったのだろうか。

「やべえよ、バルトル。まじで気持ちいい」
「あっ、あっ、い、やだっ」

ボルムが動きを速める。速く大きく動かれてへんな声が出る。やめてとスムーズに言えないし、言えたって何も変わらないだろうけど。肌と肌とがぶつかり合う乾いた音と、液体がかき混ぜられる粘った音がいっそう耳につく。奥を突かれた時に痛い中に痛いだけじゃない何かが感じられるようになり、それがひたすらいやで痛みだけを追う。

「二本は入んねえだろうなあ」
「無理だろ。俺達が死ぬよ。ちんこ死ぬ」
「だよなあ」

そのうちに、初めのデブが看守を連れて戻ってきた。尻にペニスを挿れられているおれを見て2人がいやらしく笑う。おれは、いやだいやだと言いながら気持ち悪さとよくわからない心臓あたりの痛みに泣くしかなかった。