早寝記録

目が赤く光るだけ

 狭い箱の中に、黒い服を着た少年が片膝を立て、そこに顔をうずめて座っている。見覚えがあるその服は、おそらくは学生服だろう。少年は動かない。目が赤いだけの見世物のはずなのに、目は見えなかった。
「名前を呼んで」
 少年から目を離せずにいるおれに、その後ろでどうとも取れぬ表情で見ていた柊が静かに言った。
「灯って、呼んでみて」
 柊が優しい口調で続ける。おれは一呼吸置いてから、やけにざわつく心臓を抑えながら、少年の名を口にした。
「……灯」
 室内は静まり返っていた。自分の少年を呼ぶ声が、張り詰めた空気の中に響く。少年は何の反応も示さない。届いたのか。おれは、自分が声を本当に出したのかさえ疑問に思った。まるで、声が神隠しにでもあったようだ。
「あ」
 思わず声が出る。わずかに少年が顔を上げたのだ。
 その姿を見て息を呑む。彼は、燃える瞳を持っていた。そこに火があった。暗闇の中に、一筋の真っ赤な光が揺れる。
「綺麗でしょ? 不気味な感じに。お客さんにも結構人気だったんだけど、目、ひとつ使い物にならなくなっちゃって。元団長は灯の目が好きで、でも完璧じゃなくなっちゃったから、非公開にしたんだよ」
 後ろで柊が笑った。その声が自嘲のように聞こえたが、おれはその意味を考える前に、再び少年に意識を全部持って行かれた。少年は、名を呼んだおれを片目でまっすぐに見据えている。片時も目を離すことなく、ずっと。睨んでいるように見えるが、攻撃的では無く、好意も無い。炎のような目は、その熱に反し、温度がなかった。

 暗闇に、赤が浮かんでいる。おれはしばらくの間、不思議な気持ちを抱えたまま、ひたすらに少年を見つめていた。