早寝記録

歩み寄り、失敗

 能登と仲良くなって一週間、ただなんとなくだけど俺は以前より授業に出るようになった。能登は毎日のように俺の部屋で俺をだきまくらにして寝ていくから、自然と早起きになったというのも大きい。最近は7時には起きて能登を起こしているから、その流れで一緒に登校することになってしまう。もっとも、能登は朝のミーティングとかでまず風紀室に行くから寮を出た所で別れるが、以前なら生徒会室に向かっていた足が自然と教室に向く。
 能登が真面目だから、感化されているのだ。
 でもこうして授業に出てみれば、何もかも与えられる授業の方がサボっているよりも自分で考えることがなく楽だ。
 そんな中、能登を意識し始めてから気付いたことだが、彼は授業中結構いなくなることが多い。俺の席から能登が見えるが、出て行く前は決まって電話を見ているからおそらく校内で何か問題が起こり、それで呼び出されているのだと思う。あまり聞き過ぎると鬱陶しがられる気がして中々聞けないが、当たっているはずだ。
 昼休み前、能登が電話を確認してから出て行った。
 俺は昼は面倒でなければ購買で買って裏庭で食べている。誰も来ないし、落ち着くからだ。
 だけど今日はダメだった。食堂で何かあったのか購買は食欲が失せるほど混んでおり、不良も金持ちっぽい奴らも普通のやつもみんなパン屋の兄さんに群がっている。
 並ぶくらいなら食べないほうが良いな、と考えそのまま裏庭に向かおうとして、なんとなくだが何かが起きているらしい食堂に足を向けた。そこに能登がいるかもしれないと思ったからだ。
 俺は自分でも何を確認するために食堂にいきたいかはわからなかったが、もし何かが起きているのならそれを見たい。
 生徒会室にこもっているし、授業にもあまり出なかったから、噂には聞く風紀委員の働きをあまり見たことがないのだ。
 食堂は校内と寮内に二箇所存在している。昼も寮の食堂はやっているが、昼のみやっている校内の食堂の方が豪華だしメニューも豊富だから昼は校内に赴くものが多い。
 3年の教室が入っている中央棟の一階はほぼ食堂が占めていると言っても過言ではないほど広く、昼は人の往来も多いが、今日は違った。
 中央棟に続く渡り廊下。普段なら中央棟に渡る数の方が圧倒的に多いが、今日は中央棟から出てくる人の数の方が多い。こっちに向かってくる3年生らは食堂に行けなくて困るだとか、何も今の時間じゃなくても……など口々に文句を言っていた。やはり食堂で何かが起こったのだ。
 たまに挨拶をされたり声を掛けられながら食堂に向かう。
 今行かないほうが良いと話しかけてくれた人たちは言ったが、用があると嘘を吐いた。
 食堂に近づくに連れて人は少なくなったが、その代わり遠くから怒号や何か物が壊れるような音が聞こえるようになった。食堂へ続く最後の角を曲がった所に、風紀委員がふたり立っている。確か、大神と呼ばれる二年生だ。彼は肌が白く、派手な銀髪を持っている。風紀委員なのに耳には数多のピアスが光り、その姿は控えめに言っても不良であまりお近づきにはなりたくない。
「おつかれ」
 声を掛け、通りすぎようとした所で腕を掴まれる。
「待てよ。行く気か?」
「行っちゃダメっすよ会長さん。殴られちゃうよ~」
 大神と隣にいる小柄な1年に止められた。
「まあ、良いかなと思って昼食べに来たんだけど、やっぱり無理か」
「無理だろうねえ。つうか調理の人もみんな避難してるからなあ」
「何があったんだよ」
「不良同士のただのケンカ。違う派閥でぶつかり合ってる」
「そんなのにも風紀が出なきゃならないのか……」
「よくあることっちゃよくあることだけど、場所が場所だしねえ」
「大変だな」
 言って、大神の手を腕から外し前に進むとふたりが驚いた声を上げる。
「ちょっと、聞いてた? 行っても飯食えねえし、危ねえよ。お前強そうじゃねえし」
「覗くだけ」
「野次馬かよ!」
「風紀っていっつも大変そうだけど、実際に見たことってあんまねえから、ちゃんと見とこうと思って」
「はあ?」
「俺、一応会長だから」
 走り出す。しかし、物事はそううまく行くものではなくすぐに捕まった。
「ダメダメ! なんかわかんねーけど、送ってくから戻るぞ。梅、ここちょっとの間ひとりで頼む」
「はーい」
 大神の真面目な声色に、俺は一瞬で青ざめた。俺を引っ張り戻すため大神が手を掴んでくるが、俺は手を引いて大神に向き合った。
「大神」
「なんだよ」
「ひとりで戻れるから良い」
「ああ?」
「迷惑掛けたいわけじゃなかったし、俺戻る。悪かったな」
 俺は自分がとても格好悪いと思った。事実格好悪い。大神に今告げたことは本当で、申し訳ないと思った。風紀がどんなことをしているか知っておきたいとは思ったが、迷惑を掛けたくはない。今度こそ来た道を戻る。
 後ろからは相変わらず騒がしく不安になるような音が聞こえてきていた。