早寝記録

生徒会長福井

 動かないからか、腹はあまり減らない。結構一日一食でもストレスなく生きていける体だと思う。
 午後の授業中ずっと俺は反省していた。邪魔をするつもりじゃなかったんだ。大神から能登に話が行ったら能登は呆れるだろうか。興味本位で野次馬をしにいったと思われて嫌われたらダメージがでかすぎて俺は死ぬかもしれない。
 真面目にやっているやつの邪魔をするのはかなり大きな罪で、俺はもうすこして一生消えない大罪を背負うところだった……。
 大神の邪魔はしたが、それはまあいいとしよう。一気にふたつも悩むと本当に体と頭が保たない。
 能登は放課後まで戻ってこなかった。きっと色々忙しいのだろう。
 放課後俺はとぼとぼと生徒会室に向かった。
 生徒会室にはいつからいたのか、すでに他の役員たちの姿がある。
「あ。会長だー! なんか肩落ちてるんだけど。ウケる―」
 浜名が飛び跳ねながら寄ってくる。可愛いタイプのキャラにしか許されない挙動。今日は前髪をふさふさしたぼんぼりで結んでいて、殴りたくなるような可愛さを演出していた。
 絡んでくる浜名を無視しながら奥にある応接スペースへと向かう。浜名がついてくる。
「何? なんか話し合う?」
「ちょっと考え事する」
「考え事?」
 副会長の北上が怪訝そうに眉を寄せ、自分のパソコンがある机からこちらに向かってきた。糸川と東海もついてくる。
「福井が考え事なんて珍しい。何かあったんですか?」
 応接スペースのソファに腰掛けると、北上が俺の正面に来た。浜名は彼の隣に座り俺を興味津々といった様子で眺めている。
 少し遅れて東海と糸川も来た。彼らは俺の両隣に陣取ったが、体格の良い二人に挟まれて圧迫感を覚えた。
「何もないっつうか、別に来なくて良いって……」
「それはダメでしょう。しかも、今は生徒会の時間ですから、もし関係ないことを考えるのなら生徒会が終わった後部屋で考えてください」
「北上って福井に割と厳しいよな」
 東海がおもしろそうに笑う。
「厳しくないですよ」
「能登君と会長が仲良くなって面白くないんだよ、きっと」
「別にそんなんじゃないです!」
「だって北上、すごい能登にライバル意識燃やしてたじゃん。会長知ってる? こいつ、会長より能登の方が人気あるようなこと聞くとマジギレするんだよ。僕達の会長の方が顔も性格も良い! とか言って」
 何も言えず驚いて北上を見る。嘘だろう。能登よりも俺の方が人気がないのを気にしているのは知っていたが、それは生徒会の矜持が理由のはずだ。
「何をバカなことを言っているんだ!」
「あ。怒ったー。顔真っ赤!」
 俺の隣の東海がからかうように言って北上を指さす。
「だけどさあ。やっぱ僕も会長の人気がもっともっと出ればいいなって思うんだよ。冷静に見れば半々くらいじゃない。能登派と会長派」
「そうだなあ」
 ずっと黙っていた糸川が口を開く。
「今の福井の人気は顔と雰囲気だからな。能登は風紀委員長で、前委員会と違って結構前に出てくるタイプだから、それだけ目立つんじゃないか。やり方見てると、不良たちの矛先を自分らに向けて生徒間で起こる問題を減らそうとしてるみたいだし。だから一般生徒には見た目よりも格好良く見えるんだろう」
「男が男に憧れる的な?」
「そういう票もあるだろう。寧ろ男が男に惚れるよりも真っ当で自然な好意に思える」
「確かにあいつが委員長になってから不良と一般生徒の揉め事減ったもんなあ」
 少し憎らしそうに東海が舌打ちした。北上は綺麗な顔を歪めて不機嫌さを隠そうともしていない。みんなからよく評される上品な王子様的な姿はどこにもなかった。
 俺のためにこんな顔をしてくれているのか。そうだとしたらありがたいが、それと同時に申し訳無さも生まれた。
「悪いけど、」
 俺が勝ってる要素ないんじゃないか、と言おうとしたが4人が緊張するくらい一気に俺に注目したから言葉に詰まる。
「お、俺が能登に勝ってる所って、ちょっと……」
 言いにくい。言葉を紡ぐにつれ、北上の目は吊り上がり、浜名の眉間に皺が刻まれていく。でも、こいつらは知るべきだ、現実を。
 さっき糸川が言ったように、能登が委員長になってから問題だとか普通なら事件だと言われる犯罪まがいのことが減った。それだけ風紀が頑張っているということだ。
 俺は会長だけどサボることばかり考えているし、お世辞にも良い会長だとは言えない。前の会長にあったようなカリスマ性もなく、自分で言うのもなんだが、実用性とか本質とかは考慮されない観賞用の置物のような存在だと思う。だから人気だって見た目がすべてで、外側をなくしたらなにもなくなってしまう。中身は空っぽなのだ。
「俺、会長っつっても全然目立ったことしてねえし、仕事だってみんなの方がよっぽどしてるし、それで能登より人気が出るとか、あんまり考えらんねえよ」
 言うと、大きな大きなため息を北上に吐かれた。
「たとえ能登や僕らより働いてなくても、僕はあなたの雰囲気を買っているんです」
「ふ、雰囲気?」
「こんなことを言うのは恥ずかしいですが、言いますよ」
「あ、ああ」
「さっき糸川は見た目と雰囲気だけの人気と言いましたが、こんな不良とわがままで持て余された金もちばかりの学校にずっといて、福井はまったく変わらないじゃないですか」
「変わらない……?」
「中学1年の時からゆっくりとしていて穏やかな空気が流れていました。元会長から偉そうにしろと言われ素直に頑張っていたのにも僕は癒やされていたんです」
「は!?」
「そうそう。会長って素直なんだよねー」
「え? ちょっと」
「ぐいぐい来られたら絶対断んねーよなあ」
 東海が意地悪く笑う。
「流されて散々遊ばれて飽きられて捨てられるタイプだから気をつけろよ」
「はっ」
「もー東海ひどいよ! 会長なんかショック受けてるじゃん!」
「大丈夫ですよ福井! あなたにぐいぐい迫れるような輩中々存在しませんから! みなあなたのことを雲の上の人物だと思ってますので! 今のところは!」
 北上がおそらく俺を励ましている。しかし、その励ましすら俺にとっては鋭利なナイフだ。能登、ぐいぐい来た。そして、俺は流された。毎日抱き枕にされ、時に性的な抱き枕になっている……! それで次はなんだっけ? 飽きられる? そして捨てられる? そうだ、俺は顔だけ。能登はなにやら俺にギャップを感じて面白がっているが、ギャップなんて付き合いが長くなればなるほど自然となくなっていくものだ。
 客観的に自分を見て外見以外にいいところが見当たらない。
ていうか、俺と能登の関係って冷静に考えると、付き合ってないからせ、せ、せ、せ、せふ……い、いや、だめだ。心のなかでさえあんな単語出せない。出してしまったら精神に30240のダメージだ。オーバーキル。しぬ。
「福井?」
「かいちょー! どうしたの? 青ざめてるけど、なんか心当たりあるの?」
「まさか能登ですか!? 最近妙に馴れ馴れしいとは思っていましたがまさか手を出されているのではないだろうな!」
「いいいいいいいいいや、んんんんんんな、んなわけねえじゃん。おおおおおおおお俺とののののののの能登が、いや、の、ののののの能登におおおおおおおおおれがててててて」
「会長! テンパりっぷりやばいよ!」
「福井! お前やはり能登に! なんてことだ!」
「ヒィ!」
「ちょっと、副会長も落ち着いてよ! すごい顔に会長が怯えてるって!」
「東海、この光景大分面白いな」
「えー、面白くねえよー。福井が能登に取られんの、なんか全然面白くないんですけどー」
「ごめんね」
「ごめんとかあやまられてもさー……」
 空気が止まる。突如現れた生徒会以外の声。俺にとっては聞き慣れたもの……。
 大神を従えた能登が、応接スペースの入り口ににこにこしながら立っていた。