早寝記録

王道転校生がいたよ

 夏休み前、1年生に転校生が来た。彼の名前は駿河。駿河はちょっと周りが見えていないような子で、トラブルメーカーだったが、カリスマ性も併せ持っていた。彼が放つ強烈な光は当時の生徒会を始め普段ちやほやされている奴らを惹き寄せ、なんか大変なことになった。
 面倒くさいから情報を追ったりはしていなかったが、顔のいいやつとか人気者に付くファンみたいな生徒たちが駿河に嫉妬して暴れたり、一時学校は混沌とした。生徒会が駿河の肩を持っていたこともあり、駿河をなんとかしようとする風紀委員会とも対立し、事態は悪くなるばかりだった。
「でも、転校生が二人続けて破天荒とは限りませんからね」
 能登が去り、落ち着きを取り戻した北上がお茶を啜り息をつく。
「ていうか、僕破天荒って言葉初めて生で聞いたよ! 副会長、駿河のこと心の中で破天荒って思ってたんだね!」
 ぷくく、と浜名が笑う。
「こんな学校に転校してくるんだ。金はあるけど手の付けられない問題児か、行き場のない子鹿系だろ」
 糸川も大きなため息を吐いた。彼の肩は落ち、端正な横顔が絶望のためか翳っている。それだけ前の転校生、駿河が俺達に与えた衝撃は大きかった。ひとりであそこまで学校を荒らせた駿河の影響力に会長になった今俺は変な尊敬を抱いていた。
「まあ、でも風紀が対応してくれるっていうじゃん? 任せとけばなんとかなるんじゃねーの? 俺達は蚊帳の外。転校生には関わらない感じでゆるーくやってこー」
 東海が面倒くさそうに椅子の背もたれに寄りかかった。
「東海さあ、それ本気で思ってる? ていうか、風紀に任せちゃいけないんだよ」
「そうですよ。今まで転校生の世話は生徒会が行っていたのに、僕らの代で風紀に任せてみなさい。ただでさえ風紀の勢いに押されているのに、僕らの存在感が更に薄くなります」
 ふたりに諭された東海は、少し考える素振りを見せ、それもそうだと頷いた。
「それに、これ以上風紀委員に仕事を与えたら誰か倒れますよ」
「多分能登だろうな」
「能登が倒れる分には全く心配しませんが!」
「じゃ、じゃあ、転校生の対応は従来通り生徒会がやるってことで……」
 おずおずと発言してみる。俺としたら、風紀で対応すると聞いた時内心喜んだが、今でさえ風紀はぎりぎりの所で日々の業務をこなしているのだ。糸川の言うとおり、おそらく倒れるならば能登だろう。最近一緒に夜を過ごすようになってわかったが、能登は見た目以上に疲れているようだった。おやすみから寝るまでが異様に早いし、俺が風呂に入っている十数分の間にリビングでテーブルに突っ伏している時もある。
 転校生の対応は面倒くさいが、面倒くさいとばかり言って、能登が倒れたら困るし何よりも愛想を尽かされたくない。どうやったら人が離れていかないかはわからないが、面倒くさいばかりを口に出していたら離れていくだろう。
 だから、面倒くさいは内心で思うだけに留めないと。
「みんながいいならこう決めたいですがどうでしょう」
 代わりに仕切ってくれる北上に、俺は首肯を返事に代えた。
「僕は良いよ! どんな子が来ても前の生徒会みたいにはならないし」
「俺も良いよー。存在感出していきたいよね!」
「やるべきことはやったほうが良いな」
「よし。では決定ですね」
ぱん、と北上が手を叩く。
「どんな生徒が来ても、前生徒会を反面教師とし、毅然とした態度で対応していきましょう!」
「そうだねー。最後、あの人達ですら人気落ちたしねえ」
「あたり前です。結局駿河問題を解決したのだって生徒会の改心でも風紀委員でもなく、一般生徒だったじゃないですか」
「吉原だね。大神が惚れてる子」
「ああ……」
 東海の出した人物のことを思い出す。駿河との全面対決を、先月校内新聞で見たばかりだ。俺と同じ金髪の一年生。俺とは違って不良だが、彼は今は使われていない昔の寮の一室に駿河と半日閉じこもり、駿河の説得に成功したとのことだった。
 風紀が手を焼いていた転校生をたった一日で黙らせたことに対する衝撃ははかりしれず、駿河と仲が良かった前生徒会以外に、任期終了間際の前風紀委員会にも暗い影を落とした。
「そのせいで委員長になった能登が頑張りだしたんだよねー。で、一瞬で人気に火が付いたわけだけど」
「爆発でしたね、あれは」
「その爆風で、俺がかすんだ」
 流れに乗って言ってみる。前風紀委員の不甲斐なさを能登が1月もしないうちに払拭し、生徒会以上の人気を獲得したのだ。その手腕は鮮やかだった。
「霞んでませんよ! 福井は!」
 それなのに、やはり北上は認められないようで、キッと俺を睨んできた。
「いや、だから、そろそろ認めたほうが……」
「福井の人気がもっともっと出ればこの学校は平和になる! 気がするんです!」
「い、いや、俺、そもそも偉そうにしてるし……」
「能登がトップに君臨してみなさい。あいついつか絶対王政を敷きますよ。恐怖で支配して来ますよ!」
 俺は一旦落ち着いた北上にまた火を付けてしまったようだった。
「でもやっぱり僕わかんないんだけど、能登って特に危なそうには見えないよ? 僕も会長の方が人気出たら嬉しいけど、能登人気もわかるなー」
「外面はいいんですよ! 能登が良いと言ったから堂々と言いますが、あいつはそりゃもう立派な不良なんです。学内では不良を取り締まってますが、学外では余裕で取り締まられる側ですよ。逃げ足が早いのでまだ捕まったことはありませんが」
「え! そうなの!?」
「ていうか、詳しいな」
「僕も地元に帰ったら引っ張り回されますから! おかげで逃げ足だけは速くなりました」
「仲良いんじゃん!」
「良くないですよ! 惰性です。僕がいると怒りゲージがすぐに溜まるので、普段以上の力が出せるそうです」
 北上の告白に驚きはしたが、俺はそれ以上に行き場のないモヤモヤした気持ちを覚えた。想像すると面倒臭さは感じるものの、連れ回される北上を羨ましく思ったのだ。
「福井。あんなに嬉々としてケンカを買いに行く男、止めたほうが良いです。ほら、最近恋人に殴られる事案、よくニュースになっているじゃないですか。付き合う人は僕は別に男でも良いと思いますが、優しい人にしたらどうです? 平和で、将来は特に可もなく不可もない平々凡々なサラリーマンになりそうな男」
「浮気はすべての男に起こりうる出来事だから、平凡でも油断できないよ。真面目なひとの方が僕は良いと思う」
 浜名が真顔で俺を見つめる。
「え、あの」
「ちゃらそうに見られるけど、俺とか結構真面目だよ~」
「い、いや」
「とにかく能登はおすすめできません。女性もまるでブランド物のバーゲンのようにたかってきますし」
「お前、バーゲンの例え好きだな」
「あれは、平和な現代日本における戦場ですよ……。とにかく、考えてみてください。では、僕は今決まったことを風紀委員に伝えてきますので」
「ていうか、俺、能登とは……」
 北上は俺の釈明を聞こうともせずすくりと立ち上がり生徒会室から出て行った。