早寝記録

王道転校生が来たよ

 王道転校生――俺はその意味をつい最近知った。
 ミキちゃんに教えてもらったのだ。ミキちゃんは実は腐男子と呼ばれる人間で、たまに普段のミキちゃんからは考えられないような勢いで色々な話をしてくれる。
 俺は大体は左から右に聞き流しているが、今回はちゃんと聞いた。
 俺にも関係して来るからだ。

 ミキちゃんによると、王道転校生というのはださい感じに変装していて、生徒会や学校の人気者たちに好かれて、それによって親衛隊だとかに嫌われ嫌がらせをされるがとても強いためなんとかなり、その素直で正直、まっすぐな性格のおかげで色々な人たちを巻き込み、色々な事件を起こしながら、すったもんだの末に会長とくっつくのだそうだ。
 ちなみに王道転校生の話に出て来る生徒会の人たちは不良のチームとかなんとかそういう組織を作っているらしいが、ここの会長さんはそんな危ない組織には入っていない。他の役員のことは知らないけど。

 話を聞いたときにはよくわからなかったが、実際の転入生はミキちゃんの話通りだった。
 とにかく顔のいい奴らからモテてるし、ださい格好をしている。
 生徒会役員もその他も彼に首っ丈だ。

 会長もやっとこさ俺に飽きて今は転入生に夢中で、ちょっとだけ寂しい。

「会長だからって仲良くしてくれないのって不公平じゃねえ?」

 ――なんてことになってたら良いんだけど。

「何言ってるんですか、あんたと仲良くしたら俺がみんなから睨まれるじゃないですか不公平だからって仲良くしていじめられるなんて嫌なんですけど」

 会長はそんな周りの変化に流されず、今日も今日とて風紀室の奥の部屋に俺と一緒にいる。

「だけどこの前来た転校生の子が言ってたよ。役員だからって普通にみんなと仲良く出来ないのはおかしいって」

 文句を垂れる会長に嫌気がさす。こいつは何もわかっちゃいない。

「あんたさ、みんなと仲良くしたかったらどうして役員になんてなったんだよ」

 だから今日は言ってやる。頑張って言い負かして、これ以上俺に近づかないように持っていこう。
 自分に叱咤激励をして、椅子から降り、いつものように座布団の上にあぐらをかいている会長をまっすぐに見据える。

「それは俺が美しいからさ」

 そりゃあ確かに役員は人気投票で選ばれるし、会長は誰が見てもかっこいいけど、でも、今はそんなことを言ってるんじゃないんだ。
 いつもなら俺が会長に逆らってやろうという気合いは、会長のアホなひと言によって砕けて消えるが、今日の俺は違う。
 言ってやるのだ。

「美しいならそれを隠せよ! わかってたでしょう、役員になったら普通には生活できないっていうことは。歴代の役員たちがそうだったんですから」
「隠して生きるのはなんかいやじゃね?」
「それは綺麗ごとです。人は多かれ少なかれ仮面を付けて生きているんです」
「木戸も?」
「もちろん。正直で素直で嘘なんて一つもつかないやつなんか迷惑きわまりないですって」

 言いながら、あのださいやつが目に浮かぶ。
 それを必死で頭の外に追い出すために頭を振ると、寝不足の体には厳しかったようで、座りながら立ち眩む。

「正直なのは良いことなんじゃないの?」

 会長が問うが、その言い方から「正直なのが良い」と思っているわけではなく、ただ俺の考えを聞くための言葉選びだと理解する。
 最近はわかりやすそうで実はわかり難い会長の言葉の裏の感情や含みまで理解できるようになって来た。
 別に嬉しくないけど。

「転校生みたいに思ったことを全部言うのが良いことだって言うんですか。人は一人で生きてるんじゃなくてこの地球上で多くの人、ものと共存して生きているんです。みんながみんな自分の意見だけを押し付け合って行って、それで平和が維持できると思いますか」

 やばい。話してるうちにテンションが上がって来た。寝不足だから許して下さい。

「自分が正しい、絶対だって思って生きるのは大いに結構です。けど、時には折れることも必要なんですよ。周りと折り合い付けて上手くやってくためには! 俺は転校生が来てから『折り合い』を『折れ合い』に変えれば良いと常々思っています! 本当にあいつどうにかなんねえかな」

 話し進めるごとに自分の表情が引きつって行くのがわかった。
 そういえば、何日か前会長に「お前は不機嫌な顔が似合うな」と言われた。よく生意気そうに見られる俺の軽いコンプレックスなのに。
 それも思い出してさらに苛つく。

「随分イライラしてんな」
「そりゃあ。あいつが来てからまじで忙しくなって気が立ってるんです。俺あいつ嫌いです。俺は俺に迷惑かけるやつから嫌いになるんだ」

 そうはっきりと言えば、会長が「じゃあ俺のこと嫌いなのか」と返してきた。
 なんだ。こいつ俺に迷惑をかけてるっていう自覚はあるのか。

 いつの間にか会長から外していた視線をまた会長に戻す。
 果たして俺はこの無駄に整った顔立ちで不敵に口の端を上げて俺を見ている男のことが嫌いなのだろうか。

 周りにがたがた言われるのも仕事を増やされたのも鬱陶しいしめんどくさいが――

「嫌いじゃないです」

 嫌いではないな、と思って素直に答えたら、一瞬ではあったけど会長は彼にしては珍しく虚を突かれたように静止して、それから顔を綻ばせて俺の頭を撫でた。

 「嫌いじゃない」が嬉しいのかよ。ばかめ。