結論消失
「あのさ、俺あんたに言いたいことあって来たんだけど」
「良いこと? 悪いこと? 良いことだったら聞く」
「良いことかな。結論はタイムマシンが欲しいって話」
「なんだそれ。よし、入れ。話を聞こう」
「何キャラっすか、それ」
「イメージ仏陀」
「仏陀はきっと低姿勢だよ」
会長はおかしそうに笑い、俺を部屋の中に促した。背を押されながら歩く。
さっきまで部屋の中にいたから、俺はださい白のTシャツにダボッとした紺色のジャージに身を包んでいる。
今更自分のだささが気になったが、一息ついて冷静になってしまうともう何も言えない気がした。
「先輩」
歩きながら後ろにいる会長に声をかける。会長が俺の背中を押しているから、結構距離が近い。
「何?」
「俺、先輩のことすごい好きなんです」
「……は!?」
「あんたが思う数十倍は好きなんです。だから、もし今先輩が俺のこと好きでも、いつか離れていくんじゃないかって思うとすごく嫌なんです」
「き」
「こういうこというと大抵の人はずっと一緒にいるよとか言うと思うんですけど、先のことなんか誰にもわからないじゃないですか。でも、俺はその言葉が欲しいし、現実になってほしいし、ねえ」
「な、何」
「あんたほんとに俺のこと好きなんすか?」
気付けば、会長の手は俺の背に当てられているものの、廊下の真ん中で完全に足は止まっていた。玄関から部屋に至るまでの短い中で、二人で立ち尽くす。
「好き」
「どのくらい? 俺、いっとくけど重いよ。すげー重いよ。何がって別れる時が。今もそうだけど、別れるとき殺してくれって騒ぐよ、多分。だから戻るなら今。やっぱりやめたっていわれたら、俺、部屋に入らないで戻るから。今なら比嘉もいるしあんたの手を借りなくても帰れる」
「やめたなんて言わねえよ。なんか威圧的だけど、うれしいし」
「わかります? 俺、すごい好きなんですよ。好きだからすごい心配なんです。つうかまだ出会って3ヶ月くらいっすか? それなのにこんなに好きとかありえんくないですか? 時間が全てとは言えないけど、好きになる早さ半端ないっすよ。これってどうなんでしょう。これで一生決まると思います? つうか先輩ってそもそも俺と付き合いたいの?」
「うん」
「普通の気持ちで? 今時らしく恋愛と結婚は別って考え? あ、結婚できないことはわかってますよ」
「い」
「わかります? こんなに短期間で好きになって、一生一緒にいたいって思うなんてきっとメッキです。まがい物です。でも、本当にすきなんです。わかります? 俺はわかりません」
「しゃ」
「言い忘れてるところもあるけど、とりあえず好きなんです。それはわかって欲しいなって思います」
言い終えて少しだけ酸欠状態になり、大きく息を吸う。
「……しゃべっていい?」
「はい。俺、言い終わりましたから」
そう告げると、会長は俺の背中においていた手を、俺の首へとそえた。
頸動脈を親指で軽く圧迫される。脈動が感じられた。
「別れる時はお前を殺して俺も死ぬ。こんな感じ?」
力が強められた。すこしだけ心地よくて、やばい気がしないでもない。
「……だとありがたいです。けど、逃げ切れるなら俺も死ぬ、の部分はなしでいいですよ。俺、一応先輩には幸せになってほしいんで」
何度目かの気付きたくない性癖に気付きそうな気がして、とんでもないと気付きを阻止するためにそういうと、会長は「どうだろうなあ」と曖昧な返事をして、俺の首から手を外した。会長の返答は煮え切らないが、今の俺にとっては、とても真摯で誠実な答えに思えた。
ふと、上に目線をやると、会長が後ろから俺を覗き込んでいる。ふいに視線がかち合う。
突然、俺は自分がとてつもなく恥ずかしいことを言ったのを自覚した。
顔から火が吹き出そうになる。へそで茶が沸くくらい沸騰している。
「何いきなり赤くなってんの」
「恥ずかしいことに気付いたんですよ。ノリで告白できると思ったら、あの、できたけど、そのあとのこと考えてなかった」
「いいんじゃねえの」
「良くないよ」
「いいって。木戸は俺が好きで俺も大好き。別れる時はぶっ殺す。これ以上何もいらねえだろ。まあ、俺、これっきりこんなこと言わないけど。多分。愛は囁かないタイプだから。多分」
「……そうなんですか。多分が多い。べ、別にどうでもいいけど」
「ほら、なんだっけ? 人は、本当に愛していれば、かえって愛の言葉など白々しくて言いたくなくなるものでございます。だっけか」
「……なんすかそれ」
「小説に書いてた。まだ俺らひよっこだから、先人たちの知恵でやってこうな」
「先人たちの知恵って……」
会長がぽんと俺の背を押した。そして、俺を追い越してリビングへと歩いていく。
そのとき、会長の耳が赤いことに気付いたが、俺も大概だったのと、大いなる優しさを発揮して言わないでやった。