早寝記録

心に従う

「ほんと? ありがとう」
「う、うん!」

 クラスのバカップルを見て、ため息を吐く。
 男くさいF組の中の、数少ない中性群。中性群とは中性的な容姿をした子のことで、俺が勝手に名付けたものだ。
 そして最近、その中性群の小橋くんと柏(そこらへんの陸上部)がくっついた。
 ほのぼのカップルに周囲はときに温かい目を送り、ときにいらっとする。
 俺は、暖かくもいらつきもせず、二人を見ていた。

 小橋くんはとても素直な良い子だ。そして、柏もいい人代表みたいな男だ。
 俺は、素直じゃないしそんなにいいやつでもない。
 小橋くんにデレデレする柏を見て、俺は会長にあんな顔をさせたことがあるか不安になった。
 俺は中性的でもないから、せめて性格が可愛らしくないといけないのではないか。想像すると虫酸が走るが、恋人というポジションに何もせずに浸かっているだけでなく、おそらく努力をすることも大切だろう。

 いつもの羞恥心や見栄を全て取っ払ったら、会長を好きなだけの俺が出て来る気がした。
 気合いを入れて、机の横にかけた弁当を持つ。
 時計を見ると12時25分。会長と昼ご飯を食べる時間だ。

 俺は、変な決意を胸にいつもの映写室へと向かった。

「最近弁当もすごい凝ってる? つうか、バリエーション増えたよなあ」
「……お弁当ママさんっていう雑誌があるんです。俺、年間購読することにしたんです」
「へえ。どんなん?」
「キャラもの弁当作りの基本とか、栄養バランスの考えかた、全国の主婦たちのアイデア等多方面からお弁当を考える雑誌です」
「そうなんだ」
「勉強になりますよ」

 違う。俺はお弁当ママさんについて語りたいわけではない。
 小橋くんのように話しかけたいのだ。しかし、普段の柏に対する態度を思い出そうとしても思い出せない。
 どんなことを言ってたっけ。分からん。分からないことは聞け。
 聞いて失敗することは多いが、失敗したら恥ずかしいだけだ。

「先輩……」
「何?」

 会長がアスパラを肉で巻いたものを口に運ぶ。肉に焦げ目で顔を書いたのだが、会長はそれを見ぬままに体内におさめてしまった。

「どうすれば好きってこと伝わると思いますか?」
「……ん?」
「どうすればあんたは俺に好かれてる……いや、幸せ感じますか?」

 会長が変な声を出してきょどる。予想外の質問だったのだろうか。それとも、そんなのないのだろうか。
 俺は、会長に幸せを与えたことがあるのだろうか。ない気がする。だって、自分で思うよりもきっとずっと可愛くない。
 顔はもうどうしようもないけど、性格すら可愛くないなんてこれはダメだろう。
 そもそも、どうして会長は俺のこと好きなんだろう。どこで好きになったんだろう。考えてもわからない。っていうかこいつ、どんな趣味してんだ。悪趣味すぎる。蓼食う虫も好きずきってあるから、それか。
 だとしたら俺が蓼で、会長が虫か。たとえが失礼じゃないか? 諺だとしても会長を虫とみなしちゃいけないだろう。普通に考えて。

「大好きなんです。好きなんです。けど、俺素直じゃないからうまく伝えられないんです。木戸家家訓とか言って面倒くさい女みたいこと言って、一体俺は何様なんだろう。先輩やりたかったら今ここでどん! っとつっこんじゃってもいいですよ。俺文句言わないから。……逆でもいいけど」
「おおおおおおなななななおおお俺結構幸せだけど。結構いつも幸せだけど!」
「どうしてですかあんた今までどんな人生歩んで来たんですかいつも結構幸せってなんなんですかマゾですか小さなことでも幸せを感じられるとかそういうこというんですかそんなの綺麗ごとだ」
「早口なんだけど! 息継ぎしないでお前すげえな!」
「はぐらかさないで下さいよ俺真剣なのに」
「迫ってこないで!」

 弁当をおいて、会長の手からも弁当を奪い、脇に置く。
 そして会長の両手を取って身動きを封じ、静かに倒す。すると、会長が抗議の声を上げた。

「ひどいやっぱり先輩俺のこと好きじゃないんですよきっとそうですよ友達に戻りますかいいや違った先輩後輩に戻りますかそれとも生徒会と生徒会の犬に成り下がればいいですかひどい」
「違うって! ロマンチックがいい! 俺、ロマンチックがいいんだけど!」
「ロマンチックってなんです? 俺、先輩自体にロマン感じてるんで、どこでもいいです」
「意味わかんねえ!」
「先輩好きですよ」
「俺も好きだよどいて」
「なんかいつもと口調とか違うんですけど」
「俺は急な出来事に弱いんだよ」

 それはそれで萌えるな、と思った。
 俺は会長が好きだ。そうだ、心の中ではいつも会長が好きだということを考えている。では、小橋くんは? 小橋くんだってきっとそうだ。そして、小橋くんはそれを口から出しているんだ。

「先輩萌えます」
「何!? ファイヤー?」
「下萌のいたくふまれて御開帳 の萌えですよ」
「何それ!?」
「先輩もほら、御開帳しちゃいましょう」
「御開帳って何!?」
「流れ見たら御開帳が何を指すかわかるはずですけど」
「わかりたくないこともあるんだよ!」
「ほら、ぱかって開いてよ」
「やめ!」

 会長が叫ぶ。俺は、自分が何をしているのか分からなくなって来る。
 会長に乗ったまま、思い出す。
 そういえば、素直になりたかったんだ。会長に乗っかりたかったのではない。そもそも、困らせたくなかったのに。

「……ごめんなさい」
「何?」
「もうしません」

 自分の不甲斐なさに、気が滅入る。困らせたいんじゃなくて、喜ばせたかったのに。
 会長から降りて、会長の弁当をその手に戻し、自分は教室の隅っこに行く。
 すこし反省しなければ。

「ここじゃなかったら乗っかっていいよ! どんどん!」

 そむけた背に、会長の浮ついた声がかかった。