5
眠れずに携帯電話で日付を確認したら、ちょうど日付が変わった頃だった。
目を閉じると、橘さんの声で「ケツにちんこ」と聞こえてくる。これは重症だ。
しかし、あれからずっと「ケツにちんこ」を頭の中で繰り返してきたら、だんだんとその行為が大したことのないものに感じられてくるから不思議だ。
そうだ、ケツにちんこ入れるだけ!
それなのに今まで何を悩んでいたのだろうか。
明日は藤崎のところに行こう。まさか、あの時はごめんね、ケツにちんこ入れるくらいで別れるなんて言って……と今更謝ることはできないが、無性に会って話がしたくなった。
会長と出会って俺は彼を好きになった。本当に好きで、もし俺が先に死んだら、決して化けて出たくないと思うほどだ。本当ならば守護霊にでもなって幸せにしてやらなければならないんだろうけど、会長には俺と一緒に幸せになってほしい。
俺のいない所で幸せになるなんてきっと許せない。
こんな汚い思いは会長にしか持ったことがない。
眠い気がするが、目を閉じたら「ケツにちんこ」が出てくるし、そうでなくとも知らないうちにぱちりと目が開いてしまう。
ぼんやりと携帯電話の画面を見る。秒針まで表示される時計を眺める。一秒がやけに早い。
その時、画面が急に切り替わった。電話だ。睡眠を邪魔されたくないから夜間は音を消しているので、普段は取ることができない。
相手もわかっているだろうに、どうして――
疑問を胸に、電話に出る。
「木戸ですけど」
『生きてた!』
「生きてますよ。なんですか安否確認ですか」
『間違えたんだよ、起きてたと生きてたを』
「なんでテンパッてんですか」
『起きてるなんて思わねえじゃん。木戸、最近11時くらいに寝るし』
「……たまには起きてることもありますよ。それで、どうしたんですか」
『いや……なんていうか、聞きたいこと、いや、はっきりさせないといけないことっつうか、そういうのが、ありまして、あの、とりあえず、もし、電話に、あの』
「行ってもいい?」
どこでスイッチが入ったのかしどろもどろな会長に、このままだと埒があかないと思い尋ねてみる。会長は「えっ」と言ったあとしばらく無言になり、肯定の返事をした。
電話を切り、部屋着にしているジャージを羽織る。
この学校、金はたくさんあるくせに、廊下は寒い。
常夜灯だけついた廊下に人の気配はなく、少しだけ不気味だった。そのなかを小走りで進む。
もともと、常夜灯の灯は好きじゃない。ぼんやりと辺りが見えるあの灯は、見えないはずのものまで映しだしそうで怖いから。
『ケツにちんこ』
気を紛らわそうと思いだした言葉に、自分のせいなのに顔が歪んだ。