早寝記録

会長視点1話

 俺はいらいらしながら校舎へと向かっていた。
 本当にいらいらする。
 少しでも発散しようと、少し遠回りをして中庭の池に思い切り石をぶん投げたら、肩を痛めた。
 踏んだり蹴ったりだ。
 リコールしたい。本当にもうあいつらと仕事をしていきたくない。
 もさい転校生が来てからというもの、ほかの役員たちは仕事もせず転校生にかまってばっかで俺の負担が無駄に増えた。なんだよあいつら。ふざけんな。
 こうなったら色ぼけ五人衆とでも呼ぼうか。5恋ジャー? うんこ。
 ああもう本当にリコールしたい。生徒会顧問にも本気で言ったが、俺たちの一代前の生徒会がつい数ヶ月前にリコール騒ぎで解職したため、なんとしてもだめだそうだ。
 知らんがな。それはそれ、これはこれ。生徒会なんて人気投票なんだから俺たちを選んだ生徒も悪い。だから「できませんでした~俺たち顔だけで~す」と笑って辞めてしまいたい。プライドが激しく傷つけられることになるが、俺はこのままだとはげる。ストレスで絶対はげる。はげるのと全校生徒に恥をさらすのだったら恥をさらす方が余程いい。はげたくない。

 いらだちを前面に押し出してずんずん歩いていると、大きな木が俺に語りかけてきた。というのは俺の願望で、どうやら生徒たちが俺の噂話をしているらしい。『会長』という単語が聞こえたからきっとそうだろう。
 顔だけは良く、なんだかわからないがオーラがあるらしい俺はまあ、よく褒め称えられる。かっこいいとかかっこいいとか罵られたいだとかかっこいいとか。
 鏡を持っているし、昔からずっと言われ続けてきたからかっこいいことは自分でもわかっているが、言われて嫌な気分になることはない。たまにうざいと感じるが。

 今日はいらいらしているし、自分の統率力のなさにすっかり自信をなくしているから、聞いちゃおう。
 そして俺は木の裏に身を潜めてかったるそうに話している生徒たちの話を聞くことにする。少し離れたところには俺に気がついている生徒の姿がちらほらといるようだったので、口に人差し指を当てて大人しくしておいてもらう。

 そうしているうちに木の陰の生徒の話は進んでいたようだ。

「……お前の会長イメージそんなんなんかよ」

 ひとりの生徒があきれたような声を出す。
 ん? どうした。褒められそうな雰囲気が感じられない。

「うん」
「で、この遊び楽しいわけ?」
「多分つまんないよ」
「は?」
「会長自身つまんないやつっぽいじゃん?」

 そんなことを言って、もう一人がうへへ、と下品に笑った。思わずどんなやつかと気になり、木の陰から顔を出す。
 すると、金に近い茶髪がいきなり出てきた俺に驚いたらしく、顔が一瞬にしてこわばり、火がついたように校舎へと駆け出して行ってしまった。

「なんだよ、あいつ。意味わかんね」

 俺の気配に全く気がつかない生徒は、風紀委員のようだ。風紀がつけている金色の肩章があった。それにしても、こんな近くに俺がいるし、友人が彼にとっては意味がわからない感じで行ってしまったというのに、いっこうに気がつく気配がない。風紀なのに。
 そんな生徒のことをおもしれえなあと思いながら眺めていると、風紀はごろんと芝生に寝っ転がった。
 ちょうど俺が見下ろせる絶好の場所で、今まで隠れていて見えなかった顔が見えた。
 あ、知ってる。

 俺に上から見下ろされたことでやっと俺に気がついた風紀の真っ黒な目がこれでもかというくらい大きく見開かれた。

「会長……」

 呆然とつぶやく風紀の声に気分がよくなる。もっと困らせたいという欲求がふつふつとわき上がる。
 やはりストレスが溜まっているのだろうか。いや、溜まっているが、人を困らせたいと思ったことは今までになく、少し戸惑った。
 しかしそんな思いなどおくびにも出さずに、風紀に向けてにやりと笑いかける。

「木戸だっけ?」
「いいえ僕は田中です」

 木戸で間違いないのに、わかりやすくとぼける木戸にさらにおもしろくなる。

「木戸だよな」
「いいえ僕は田中です」
「木戸君、来てほしいんだけど」

 木戸の意志なんて気にせずに話を進める。俺の心の平安のために、少しからかいたくなったからだ。風紀委員だし、仕事のことで話し合いが――とか適当なことを言えば生徒会室に入れてもいいだろう。ほかのやつらは仕事もせずに恋に忙しいんだから、俺だって少しくらい職権乱用してもバチは当たらないはずだ。

 木戸は意外にもすぐに諦めたようで、面倒くさそうな様子で俺に向き直った。それから、どうして俺の名前知ってんすか、とか、あとは適当に返事を返してきたりして、それまでは結構ちやほやされてきた人生だったから、木戸そのものに興味がわいた。

 それから俺は上機嫌で生徒会室に木戸を連れて行った。職員室に呼び出されていたことも忘れて。
 放課後に俺を呼び出した教師には怒られたが、最近ずっと俺を支配していたいらいらは消え失せていた。