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「あれ? なんだ、藤崎じゃん。何してんの?」
不良の手が俺のパンツにかかった瞬間、今まで俺に一度も起こらなかった奇跡が起こった。しかも、知ってる顔。これはとても恥ずかしいが、消え去りたいくらい恥ずかしいが、このタイミングで人が通りかかるなんて――ん?
不良が俺から体を起こし、今しがた現れた奴に全力でくってかかっている。それをありがたいことにして、俺はこの後のことを考える。こんなことになるなら、人知れず外で突っ込まれてた方がましだ。
だって、今現れたこいつは風紀委員。絶対にばれたらいけない相手。これでまた教師たちのところに俺が問題起こしたって行ったら、ほんとのほんとに停学になる。家にいられなくなる。この学校は金持ちの息子たちが通っている学校。俺の家も金はある。しかもある中でも結構ある。つまり金持ち通り越して大金持ち。だけど、だからこそ俺みたいなやつは邪魔にされていて、小5あたりにきた反抗期に抗えず、ちょっと親に楯突いてみたらすぐに親戚の家に飛ばされて。
次に問題起こして家に連絡いったらもう俺受け入れられない。破門。単語のチョイス間違ったきがする。勘当? これだ。正解わかったけどだめじゃねえかありえん。
腹筋あたりもいいだけ殴られたから起き上がるときにかなりの痛みを伴ったが、背に腹は代えられない。ぐっと腹に力を込めて地面にぺったりと寝そべらせていた体を起こす。案の定体の至る所がやめてくれと悲鳴を上げた。
「ちょっとちょっと、ふ、福本!」
記憶の隅から春にクラスがおなじになったばかりのクラスメイトの名を呼ぶ。いつも心のなかでも風紀と呼んでいたから自信はなかったが、どうやら正解だったようで、不良と風紀委員がこっちを見た。ただ声を出したからかもしれないけれど、まあいい。
「俺、なんつうの。SM? ボコリ愛だから、別に、襲われてたわけじゃねえの。わかる? 風紀が出る幕じゃないから」
「ばか?」
一言で返される。こういう嘘は、相手も協力してくれなければ成功しないことに気が付かなかった俺が悪い。どう考えてもどう見ても不良は俺を襲ってたし、確か不良はベルトに手をかけたとき積年の恨みがなんちゃらとか言っていた。
その後、不良はあっけなく福本によって御用となった。
一発で不良の意識を落とした福本に感心・尊敬したが、疑問がわいた。新生風紀って、相手なぐって良かったっけ? ダメだった気がするが、けどハッピーエンドなんだからどうでもいい。
不良を片腕で引きずり、どこかへ連行しようとしている福本のあとを必死で追う。
空いた方の手で携帯を持った福本が俺に気が付き、こっちをみて眉を顰めた。
「藤崎は待っててよ。今、他の風紀呼ぶから」
「よかったあ! 待って。それだけは待ってて!」
「は?」
良かった。まだ呼んでなかった。
「お願いだから、風紀に報告やめて」
「なんで」
「俺、次問題起こしたら停学なの停学」
「襲われてたんだから大丈夫でしょ」
「福本はまだ風紀になって数週間だからわかんないかもしれないけど、俺、教師の信用全くないの」
「……ああ」
福本は知っているようないないような、曖昧な返事をくれた。
「そんな俺が襲われましたなんて言っても、無駄なんだよ。どうせお前が吹っ掛けたんだろって言われて、終わり」
言ってて情けなくなってくる。情けないとは違うかも知れない。初めの頃を思い出されてすこし悲しくなってきた。
「ね、頼むって」
パン、と神社で合格祈願をするくらい真剣に福本に向かって手を合わせる。
「まあ、別にいいけど」
福本はそう言って、意識を飛ばした不良をその場においた。
――
福本…名前は省吾