おかゆ
「ほら、食え」
スプーンに作りたてのお粥を乗せて鏡の口元に運ぶ。
「昨日上手くできたから調子に乗って卵と味噌入れてみた。結構うまくできたから安心しろよ」
「うん」
鏡が口を開ける。そこに卵粥を突っ込んだ。鏡が目を閉じで咀嚼する。喉がしっかりと上下するのを俺は見た。
「おいしい……」
「だろ! いっぱい食えよ。そうしたら明日には治るんじゃねーの」
柄にもなくうれしくなって、素直にそれを表に出してしまった。
「海部、上手だね」
「俺、実験得意だから。レシピ見て寸分の狂いもなく計量して時間も測ってやったからな」
俺の言葉に、鏡が実験と一緒なんだ、と吹き出す。昨日より目もしっかりしたし口調も戻ったし、熱も下がった。まだ7℃台を行き来しているが、この調子なら長くはかからないだろう。
自分で食べれる、という鏡にお椀とスプーンを渡し、傍の椅子に座り直す。
「海部……」
「何? ごちそうさま?」
半分くらい食べたところで、鏡がおもむろに口を開いた。
「ううん。全部食べる……。ねえ、海部、のど痛くない?」
「俺? 全然」
「俺、一昨日、のど痛かったんだ。きっと移っちゃうよ」
鏡が眉を寄せて俯く。
「大丈夫だって。俺、風邪引かねえし」
「引いたら、怒って」
「怒んねえよ。怒るくらいなら看病すんなって、逆に怒っていいよ」
「そんな……。ねえ、俺、昨日なんか失礼なことしなかった?」
「は? 失礼なこと?」
「記憶がないんだ。夕方目が覚めたら海部の部屋でびっくりした」
思い返すが、俺がテンパっていただけで、鏡はただ苦しんでいただけだ。
「なんもしてねえよ。安心して食って寝ろ」
「ありがと……」
鏡が残りを口に運ぶのを見ながら、こっそりと息を吐く。
なんだか急に肩の力が抜けた。脱力。
昨日から今まで、本当に時の進みが遅かった。ほんとうに本当にだ。
反省と心配と懺悔と後悔のせい。
看病なんてしたことないが、他に何かすることはあるだろうか。
けど、良くなってるからいいのか。
とりとめなく様々なことを考える。だけど、そのどれもが鏡のことだ。
「海部」
「ん? ごちそうさま?」
「うん……」
歯切れ悪く鏡が答え、サイドに用意した小さなテーブルにお椀を置いた。
「もうひとりでも大丈夫だから、俺、部屋に戻るよ」
「いいんじゃねーの。治るまでいれば?」
「だって、俺がいたら海部寝るとこないし、学校いけないし」
ぽつぽつと鏡が言う。
「なんのための生徒会の特権だよ。こういう時のために授業免除があるんだよ」
「……ちが」
「何、違うの?」
「違わない、かも」
「そうだろ。ほら、寝ろ」
相変わらず俺の意見を否定出来ない鏡の熱い肩を押せば、ぽとりと鏡が布団に落ちた。