手紙
しばらく開けていない机の引き出しを探る。
大事なものしか入れていないから、目当てのものはすぐに見つかった。
「あった……!」
一通の手紙を持ち上げると、それらは光によって輝いて見えた。
恭弥君からの手紙だ。
中学生に上がる春休みにもらったもの。
帽子を目深にかぶった男の子から、頼まれた、と言われて渡されたのを覚えている。
返事を書いて恭弥君の家のポストに入れたが、果たして恭弥くんの手に渡っただろうか。
学校に馴染めずに挫けそうになった時、幾度となく読んだ手紙を久しぶりに読む。
綴られた言葉はどれもが俺を心配するものだった。
困ったらこういうふうに立ち回れ、とか、気の持ち方とかを一生懸命書いてくれている。中には悪態の吐き方まであった。
ベッドに座り、傍らにそっと手紙を置いて封筒をじっと見る。封筒にはきちんと鏡令様と書かれている。恭弥君が書いてくれた俺の名前がとても尊いものに見えた。
久しぶりに恭弥君からの手紙を取り出したのには理由がある。
今の俺は彼といた小学生時代にはなかったあまり綺麗ではない感情を持っている。それは、人を手に入れたいという感情。もっともあの頃は絶えず俺なんか俺なんかと卑下しかしていなかったから心の奥底で誰かを手に入れたいとちらりと思ってもそれを敢えて認識しないようにしてきた気もするけれど。
俺は海部を手に入れたい。
海部は俺と一緒にいて、味方になってくれる。それだけじゃない。言葉で言い表せない何かが海部にはある。恋がどういうものかわからないと思ったが、これが恋なのだろう。今までしたことがなかったからわからなかっただけ。
最近、こう思うようになった。
しかし、好きだなあと噛み締めるたびに、恭弥君への罪悪感は募るようになっていた。
俺は、自分と離れたら恭弥君は友達がたくさんできると思っていたが、恭弥くんの気持ちを完全に無視していた。
当時、恭弥君と俺がケンカすることはあまりなかった。俺が相手じゃケンカにならなかったというのが大きかったが、それでもたまにケンカになることがあった。
それは、決まって俺が彼に「はなれたらともだちができる」と言う時だ。いつも一緒にいてとお願いするくせに、反対のことを言うなんてそれだけで最低だけど、恭弥君が怒るのは反対のことを言うからではなかった。
俺なんか、と卑下する俺を彼は怒っていたのだ。そして最後には『一緒にいたいからいるんだ』とふてくされたように口をとがらせる。
本当に俺はどうしようもなかった。
恭弥くんは「レイちゃんは優しいから好きだよ」といってくれていたが、優しいのはいつだって恭弥君の方だった。
俺は海部を手に入れたい。
これからどうしたらいいのかも真剣に考えたつもりだ。
だけど、考えているうちに思考は恭弥君へと向くのだ。
俺が無意識に犯していた罪。もしも俺が海部に告白したとして、海部が受け入れてくれても、恭弥君に謝らないうちは、俺はいつまでも「俺なんか」と卑下し続けるだろう。自分の心を騙してその感情に蓋をすることは簡単だけど、蓋はいつか開いてしまう。
この世の中はショギョウムジョウらしいから。
『俺、格好悪いんだよ』
この前、俺を抱きしめながら海部が言った言葉を思い出す。
多分、彼は本当に思ったことを言ったのだ。俺にとって海部はいつでも格好良い存在だけど、彼の中ではそうじゃない。
俺は今まで自分のことしか考えてこなかったけれど、俺なんか、という自分を束縛している鎖を外すことができたら、もう少しだけ人の気持がわかるかもしれないと思った。
「恭弥君に謝りに行こう。……ひとりで」
言葉に出してみる。
島から出られる夏休みまではあと一ヶ月以上もあるが、それまではとてもじゃないけど待てなかった。俺には作戦がある。
島から出るのは簡単だ。俺がいなくなったら生徒会のみんなは仕事が増えて困るだろうけれど、今はあまりすることがない時期。一週間や二週間席を空けても大丈夫だ。
みんな、ごめんね。
心のなかで謝って俺は決意した。