到着
学園前でバスから降りる。学園前なのに、見事な田園風景が広がっていた。その向こうは俺がさっきまでいた山の麓だ。
(本当に山ばっかだ)
田園に背を向け少し上を向くと、木々の向こうに聳え立つ古城見える。そこが恭弥君の学校だ。
そこに向かい、軽い山登りを始める。おそらく、15分くらいで着くだろう。……と、思いたい。
怪我をして痛むからだに鞭打って、早足で登って行く。城がだんだんと近づいてくる。
金持ち学校と名高い学校だが、それは俺のとこも同じ。だけど、コンセプトが違うとここまで雰囲気が変わるとは……。
間近に迫った恭弥君の学校はまさに西洋の古城そのもの。あれほど見事な城だと使い勝手が悪そうだ。
しかし、近くに来てわかったが、城のほかにホテルみたいな施設と、大きくて綺麗だが城とは異なる校舎が見えた。城は使われていないのかもしれない。
これほど観察できるほどに俺はすっかり足を止めていた。
これからどうしよう。
来たは良いものの、服だって姉が買って来てくれたラフなTシャツとジーンズだし、腕には包帯が巻かれている。怪しい。
金持ちが多く通う学校にこんな格好で来て、まず入るのが難しいのではないか。
でも、来たんだ。
まだ、夕暮れには早いが、郷愁を誘うカラスの鳴き声が耳に届く。最近ではカラスの存在を気にすることもないが、恭弥君と一緒にいた頃は恐怖を感じつつも身近な存在だった。
時計を確認するともう午後六時になる。えいやと意を決し門を越えた時だった。その時、正面施設から、学ランの生徒がひとりでて来てたのだ。俺は慌ててすぐそばの木の陰に隠れた。
門を締めに来たらしい生徒を、木の陰に小さく丸まってやり過ごす。
「不審者はっけーん」
頭上から声がして、恐る恐る目を開けると、手入れの行き届いたローファーの先が目に入った。
*
「木戸恭弥?」
「そそそそそそそそうです!」
すごい勢いでどもってしまい、緊張で青ざめていた顔が赤くなるのを感じた。
門のところで俺を捕まえた生徒は恭弥君の学校の風紀委員長だった。表情があまり変わらないから何を考えているかわからないが、問答無用で追い返さず、学生寮にある面会室で話を聞いてくれるあたり、怖い人ではないようだ。
「一応、必要だから聞くんだけど、恭弥君との関係は?」
「と、ともっ、や、おっ、おさななっ幼馴染です」
「面会理由は?」
「あのっ、あ、あや、……しゃっ謝罪ですっ」
「謝罪か」
「むかっ、むかし」
「良いよ、細かいことは。プライバシー大事にしたいから」
委員長が淡々と遮る。彼はテーブルを挟んだ向かい側で、うーんと頭を悩ませていた。
「面会って家族だけなんだよねえ。……でも、謝罪かあ」
委員長が独りごちる。
「恭弥君なら、ごめんね、いいよで即許してくれそうだけど……」
「あ、あの……」
「ん?」
委員長が顔を上げる。なんだか不思議な目だと思った。何を考えているかわからないけど、柔らかい。
「きょう、恭弥君と、友達なんですか?」
「友達? いや? 同じ委員会の後輩」
ということは、恭弥君は風紀委員なのか! ぴったりだ!
「ま、いいか」
委員長が立ち上がる。
「ちょっと待ってて」
そして、面会室に俺を残して出て行ってしまった。
――数分後
学ラン一式を持った委員長が戻り、それを俺に差し出した。わけがわからぬまま受け取る。見た目の厚みを裏切る通気性抜群の触感……じゃなくて。
「これ……」
「一年の制服。まだ6月だし、生徒数多いし、まぎれてもわかんないよ」
「え」
「518」
「518?」
「恭弥君の部屋。いなかったら717に来て。俺の部屋だから」
そう言って委員長が面会室から出ていこうとする。呼び止める声が出るか不安だったが、聞こえるように、声を張り上げた。
「あのっ」
「何?」
委員長が振り向く。表情は変わっていない。
「い、いいんですか?」
「良いよ。だから持ってきた」
「な、なんで」
尋ねると、委員長は俺から視線を外し、頬を数回かいた。
「鏡令って、「レイちゃん」でしょ? 恭弥君から少しだけ聞いたことがある。ああ見えて、恭弥君って昔の話滅多にしないから、よく覚えてる」
「恭弥君が……」
「職権乱用。恭弥君をこき使ってきたからたまには贔屓しようと思って」
そう言って委員長は面会室から出て行った。
「お礼、言いそびれちゃったな……」
無意識につぶやき、委員長の残してくれた制服を見る。
「よし」
今度は敢えて声を出した。
行こう。俺は恭弥君に会うために来たのだから。