ちゅーしたい!
「お前、誕生日だろ。何か言ってみろ。聞いてやるよ」
俺のベッドに寝転んで右手で漫画のページを捲り、左手でレモン味の炭酸飲料を持ちながら、染井が急に変なことを言い出した。祝ってくれるのかと少しうきうきしたが、彼は漫画に夢中なようで、ページを捲る手は速い。俺はベッドの下で特にやることもなく電話をいじっていたが、染井に話し掛けられて電話をテーブルの上に置いた。で、染井を見上げて言ってみる。
「最近彼女いねえから、チューしたい」
「あ、そ」
染井が困ったら面白いしという思いもあって言ったのに、また漫画のページが捲られる。染井の目は漫画に落とされたままだ。
確かに夢中になるのもわかる漫画。しかも染井が読んでるのはすごく熱いところで、なんと主人公が無念の死を遂げるという衝撃的な巻なのだ。でも、自分から聞いたのにその反応はねえよ。せめて俺が答えてる時くらい手を休めろ。
「チューね」
聞いてねえだろ、と思ったが、染井はベッドに漫画を投げ、ベッドから身を乗り出して俺の顔を両手で掴んだ。え? 至近距離に染井の顔。
迫ってくる――と思った時には視界はぼやけ、口の端をぺろりと舐められていた。染井の熱い舌を感じ、身震いする。
「キモかった?」
染井が緩く笑い、今度は唇を舐めてくる。唇が濡れた感覚に羞恥がわき起こり、体中の熱が頭へと昇っていく。なんだこれ。
状況に頭がついていかない。困らせようと思って言ったのに、本当にするとは。
驚いているが、気持ち悪いという思いは湧いてこなかった。
だって、なんとなく染井としてみたいと思っていたから。
調子付いて口を開けると、そこから染井の舌が入ってきた。少し舌を出すと染井の熱い舌と俺のが絡まりさらに熱くなって、絡まったところから溶けていきそうだ。染井が口ごと舌を食べるように、かぷっと口を覆ってきて、俺は息をするのを忘れて苦しくなった。ふもふもと口を動かす。なんか、すごい気持ちいい。染井は目を閉じて、キスをしながら指で俺の頬をやさしく撫でている。
俺も目を瞑り、染井とのキスを堪能しようとしたところで顔が離された。短いけれど濃厚なキスで染井の唇が赤くなっていた。それを見て欲情する。
ただの男なのに、ヤりたいと思ってしまった。上でも下でもどっちでも良いから裸になってヤってみたい。
まだ足りないが、終わりだろうか。たった1分の誕生日プレゼントなら、随分ケチだ。
「やりにくい。上がってこいよ」
「えー……」
「何、俺に下がれっつうのかよ」
染井が笑い、ベッドから降りた。そして、あれよあれよという間に俺をベッドの側面に押し付け、今度は噛み付くように口付けてくる。
「ぅんっ……」
ぴちゃぴちゃといやらしい水音を立てながら舌を吸ってきたり絡ませてきたり、染井は的確に俺を高ぶらせる。受けるキスがこんなに気持ちいいなんて知らなかった。押し付けられた背中は痛いが、それすらも気持ちいい。
「松見、」
染井が唇を触れ合わせながら俺の名前を呼ぶ。そしてそのあと首元に顔を寄せた。ふわりと首筋に染井の濡れた口があたり、俺はブルっと震えた。
「ん、何……」
「えろい。お前見かけによらず、あんま経験ないだろ」
「……んなことない。結構モテてた」
「だって、なんか反応が女みたいだ」
「あっ」
染井の手がシャツの中から入って来て乳首を引っ掻いた。なんか「あ!」とか言ってしまったが、羞恥に耐え切れなかった俺はそれを自分の中でなかったことにした。
「そ、染井が女を語るとは……」
「柔らかい生き物だから、欲しいと思う時もある。一時間位」
「あ、うぅっ……」
カリカリと染井の手が動く。情けないことに感じやすいのか、俺は時折小さくびくびくと体をはねらせる。
「一時間だけ、遊んでる成果がこれ?」
気付かれないように左手を勃ち上がりはじめているそこへと持っていく。
「んっ」
押しつぶして萎えさせようという作戦は、あえなく失敗した。触ってしまったことによって気持ちよくなり、声まで出た。
「そうだよ。はは、俺下手?」
「いや、思わず勃っちゃった」
もう興奮を隠すことはできない。それに、もっと気持ちよくなりたかった。ここで強がって終わってしまうのが嫌だった俺は、染井の肩に顔をうずめ腕を掴んだ。
染井が右手を伸ばして俺の股間を触ると、その瞬間また体が跳ねた。
「ほんとだ。かわいいとこあんじゃん。まあ、俺も勃ってるけど。キスだけなのに、恥ずかしいな」
全然恥ずかしくなさそうに染井が爽やかに笑い、キスを再開してきた。その内に学ランのボタンは外され、中のシャツのボタンも外され、肌が丸出しになった。ストーブだって付けてるし、部屋は十分暖かいはずなのに緊張からかなんだか寒い。
だけど、染井の口が段々と首、肩、胸へと降りていくと、染井に触れられたところから順に火を付けたように熱く燃え上がった。
「う、わあ……」
「何、松見」
段々と体をおりてきた染井の顔が俺の勃ち上がっているものへと寄せられる。布越しにそこに口付けられ、びりびりとしびれたようになった。絶対完勃ち。もうきつい。
「俺っ、チューしたいっつったのに!」
「したい? ああ、もしかして俺側やりたかったってこと? 受けるほうじゃなく」
違う、そういう意味じゃない。
そう言いたかったのに、染井は俺の答えなど気にもせず今度は俺のベルトに手を掛け、下着ごと全部下し、俺の息子を取り出した。そのあまりのスピードについて行けず、俺はただ「ああ、寒い」と思っただけだった。
「ここまで来たら抜こうぜ、一緒に」
がちゃがちゃと染井が自分のベルトも外しに掛かる。
「なんか、お前……。なんでそんなのりのりなんだよ」
「誕生日おめでとう」
「ありがと……って、なんだよ……」
「この前お前、俺だけには嫌われたくねえみたいなこと言ったじゃん。覚えてる?」
「覚えてるけど……。完全に言わされたやつ」
「そんな風に言うなって。俺あの時、こいつ可愛いなって思ったんだよ」
染井は露わにした自身と俺のものを一緒に握る。
「あっ、そ、そめい……」
そして、ゆるゆると扱き出した。他人の熱いものとこすれ、何も考えられなくなるほど気持ちいい。扱かれるうちに段々と先走りが先端から溢れてきて、俺と染井のそれが合わさって染井が手を動かす度にぐちゅぐちゅと卑猥な音を立てている。
「あっ、そめ、そめいっ」
「なに、かわいく、ん、呼んじゃってんの」
染井が手を動かしながらキスをしてくる。
「ん、ふぁ、あ」
俺はいつの間にか床に押し倒されていた。染井はまるでセックスでもしているように腰を動かし、俺も女のように体を揺らした。制服同士の布がこすれ合う音、時々どこかに体の一部が当たって生まれる無機質な音、俺と染井の荒い息遣い。全てに興奮した。
なんだこれ。
すげー満足する。
気持ちいい。なんか、体も心も気持ちいい。
染井に握られてるちんこも、キスされてる口も、絡まってる舌も、染井と密着している全てのところが幸せだ。
何だ俺、ホモなのか?
それで、染井が好きなのか?
「あ、そめ、イク、かも」
「良いよ、俺も出す」
「んっ」
一瞬、頭が真っ白になった。
そして、はじけ飛んだ。羞恥心と精液が!
染井もイッたようで、俺の腹にドロッとした白い液体がかかっている。それさえもイッた後のぼうっとした頭では認識できず、染井もイッたんだなあなんてのん気に考えていた。
……。
…………。
………………。
「明日、何着てこう、学校」
わずかに冷静になった俺の目には、制服のズボンと学ランに飛んだ白いあれが映っている。誰にもばれなかったとしてもこのまま学校に行くのは絶対に、絶対に嫌だ。
「今日洗って明日はサボろうぜ。んで、先に進んでみよう」
「……先って?」
「穴。ロマン穴」
「ロ、ロマン穴……?」
「朝からヤれば一日で開発できんじゃねえの? お前、才能ありそうだし」
「は……?」
染井が笑顔で言っていることの意味がわかり、別の意味で頭が真っ白になる。
「何、染井、お前ホモだったわけ? ガチ? ガチなの?」
「いや。違うけど。でも松見見てたらヤりたくなった」
染井は俺の腹に掛かった精液を丁寧に拭いた後、ローションとゴムを買いに行こうと立ち上がった。ちんこが出てた。染井がキラキラした不良らしくない顔でパンツとズボンを上げる様をじっと眺める。
女だったらまあ、しょうがないけど、付き合ってない男と最後までヤるのはさすがにどうなの……とまっとうなことを思いながら俺も立ち上がって床に転がっていたパンツとズボンを履いた。
「……ま、良いか」
とりあえず、明日が終わってから色々考えよう。セックスしましょ、お前が下で! と言われても、幸いな事に全く嫌な気はしないのだ。それならば、ヤっちゃったほうが良い。
ちょっとわくわくしていた。ヤりたいと言われて喜ぶ自分を気持ち悪いと思いながら、財布を持って部屋を出る。
子供のような純粋な高揚感と好奇心に満たされていた。
好奇心の対象は、ひどく汚れているけれど。